説得より、質問
患者さんの考えや行動を変えたいときは、説得しない。
質問する。
たとえば、依存症の患者さんが治療プログラムの途中で「退院します」と言ったとき。
「そんなこと言わずに頑張りましょう」
思わずそんな言葉が出そうになっても、こらえる。
「退院したいんですね。ご家族に連絡は?」
「いや、まだ」
「なんて言われそうですか?」
「ダメって言うでしょうね」
「どうして?」
「体が心配とかでしょう」
「ご家族は体の心配をされてるんですね」
「でしょうね」
「そのことについてはどう思います?」
「体はもう元気ですよ」
「では、体はもう元気だって伝えたら、ご家族はどう言いそうですか?」
「……約束がちがうとか」
「なにか約束したんですか?」
「3ヶ月入院するって」
「なるほど、約束されてたんですね」
「まぁ」
「でも、○○さんにとっては、家族との約束なんてそう重要でもない?」
「いや……」
こういう対話を重ねることで、うまく軌道修正できればいいし、仮に「退院する」という結論が変わらなかったとしても、医師患者関係に致命的なヒビが入らずに済む。
これが説得や議論だと、結論が入院の継続にしても退院にしても、患者さんの中に何らかのシコリが残ってしまう。それが、その後の治療にいい影響を与えることはあまりない。
こういうやりとりに持ち込むためのコツは、こちらが一番最初に発する言葉だ。
ここでは「ご家族に連絡は?」としたが、たとえば「いつからそう思ってたんです?」でも「担当看護師とも話したんですか?」でも「なにかあったんですか?」でも良い。
とにかく、尋ねる。
脊髄反射的に説得しない。
この初手の質問で、間を一拍稼ぐのだ。
そうして得た数秒で「あっ! noteで読んだやつだ!!」と思い出せれば、あとは流れに任せて質問を重ねれば良い。
ただし、多少の工夫は必要である。
この会話例では「○○さんにとっては、家族との約束なんてそう重要でもない?」がそれにあたる。
これは要するに、「答えてほしいことの逆を投げかける」という手法だ。たとえば、
「入院を続ける気は、ゼロ?」
こう聞かれて「ゼロです」と即答できる人はあまりいない。たいてい「いや、ゼロではないけど……」とにごす。
「ゼロじゃないのは、なにか理由があるんですか?」
「やっぱり、家族に迷惑かけたってのもあるし」
ほら、これで患者さんの内側から動機が引き出せた。
「家族にはもう迷惑かけたくないって想いがあるんですね」
こうやって言葉にして返すことで、その人の中で「無理やり入院させられた」「嫌々入院している」という想いが、「家族に迷惑をかけたくないから入院している」に変わるかもしれない。
もちろん、そう簡単には変わらないかもしれない。
でも、害はない。
害がないのだから、試してみたらいい。
きっと、説得したい相手と会話するときに感じるストレスが減ることに驚くはずだ。同じように、相手もストレスを感じずに済んでいる。
互いに楽になるのだから、やらない手はない。
こういう方法を学ぶなら、本書が超絶にオススメ。
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