【100分de名著を語ろう】10月放送分「ヘミングウェイ・スペシャル」③④から
こんにちは。
21/10/28(木)21時から、clubhouse内にて、定例の「100分de名著を語ろう」ルームを開催しました。今回の対象は、10月度の「ヘミングウェイ・スペシャル」から、第3回と第4回放送分で、それぞれ『敗れざる者』と『移動祝祭日』を扱っていました(解説担当は、都甲幸治さん)。
始めに、数名の「スピーカー」さんに、それぞれの感想を述べていただきました。ただしnoteととして発表するとは伝えていないため、ここでは、私の感想のみの記載といたします。ご了承ください。
『敗れざる者』は、盛りを過ぎた闘牛士が臨んだ「最後の試合」について記述されています。興行師に出場させてほしいと依頼しますが、いわば「2軍」の試合に当たる夜の部でならとの条件で出場が決まります。
さらに、同時に試合に臨む協業者を探すのですが、ここでも「うまくいかなかったら、(闘牛士の象徴である)その辮髪を切れ」と。つまりは、引退することを条件に3人の協業者が決まります。
その協業者は、闘牛士が盛んに汗をかいていたことを察知し、彼が既に全盛期を過ぎてしまった人間であることを悟ります。
若い2人の出場者の華麗なテクニックに会場は沸きますが、雄牛にとどめを刺す場面に至って、闘牛士は雄牛に脇腹を突き刺されてしまいます。
ベッドに横たわっていた彼は、「うまくいっていたんだ、とてもうまく・・・」と語りますが、その言葉を、周囲はどんな気持ちで受け取っていたのかについてまでは、ヘミングウェイは記述していません。闘牛士のその後、例えば生きながらえていたのか、絶命してしまったかについても、「禁欲」を守ったままでした。これは、文章のリズムやスピード感を損ねることを忌避したことによるとされています。
第1回・第2回の放送で扱われた『老人と海』にも共通して見られた点ですが、この2作は、いわば「人生の秋」に差し掛かり、「退場」するかしないかといった場面を描いているものと思われます。そこから伝わってくるものとは、「想い」の連なり、あるいは、想いを「託す」ということでした。
実はその闘牛士は、弟を試合で亡くしていたのです。なので、そうそう簡単に「引き下がる」ことができない。彼は、自分自身の「負けない」という姿を、若いジプシーの協業者に、いわば「託した」のだと思います。
これは、『老人と海』において、老人が獲物のカジキをサメに食いちぎられ、ほとんど残っていない状態になってもなお、港に持ち帰ったこととも響き合ってきます。老人は、自分の姿を通じて「想い」を、彼を慕う少年に伝え、託したかったのではないかと思うのです。
一方の『移動祝祭日』は、若きヘミングウェイのパリ滞在時代を、虚実取り混ぜて描いた作品です。彼はこれを「フィクションと受け取ってもかまわない(趣意)」と述べているそうです。ガートルード・スタインや、フィッツジェラルドらとの交流についても言及されている、貴重な史料でもありますが、ひどくこき下ろしている部分もあるそうです。
また、ヘミングウェイは、この作品では自身の「創作」の秘訣についても言及しています。先に触れたように、リズムやスピード感を損ねないための大胆な省略、あるいは思いついた着想を、その場で文章とはせずに、一定時間熟成させることなどについて述べているようです。
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今回は以上といたします。最後までお読みいただき、ありがとうございました。次回のルーム開催は、11月4日(木)21時からの、『カラマーゾフの兄弟』再放送・第1回を扱う回となります。どうぞお運びください!
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それではまた!!
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