見出し画像

キャリア選択の常識崩壊した…

本の紹介

サイエンスライターとしてヘルスケアや生産性向上に関する書籍を手掛ける鈴木祐氏の「4021の研究データが導き出す 科学的な適職 最高の職業の選び方」です。

鈴木祐氏のブログで紹介されている最新の科学論文や知見はいつも参考にしています。科学的根拠に基づいた研究結果から提示された答えなので説得力があります。

そんな鈴木祐氏が、1990年代から研究が進んだ「キャリア選択」の答えを整理し紹介しているのが本書です。
「正しいキャリア選択」をするための研究結果に自分の価値観やライフスタイルを組み込み、自分だけの「適職の選び方」をつくる方法を具体的に提示しています。

本書は5つのステップで構成されています。

  1. よく聞くアドバイスを検証、陥りがちな幻想から脱却

  2. 人間が幸福を感じる仕事の要素

  3. 人間を不幸においやる職場の条件

  4. 自分の意思決定が正しいか確かめる手法

  5. 自分の仕事選びは正しかったのかを確かめる手法

それぞれの詳細は本書を読んでいただくとして、自分が特に気づきや学びを得た部分を引用しつつ思ったことをメモっていきますが、特にキャリア選択の判断軸になる1・2・3を対象にしたいと思います。

ステップ1 幻想から覚める

仕事選びでやりがちな判断ミス

仕事を選ぶ際の判断基準は人それぞれあると思いますが、ありがちな7つの要素が説明されています。

現時点で多くの研究が「人間の幸福とは関係ない仕事の要素」について信頼性の高い答えを示しており、まとめると大きく7つに分けられます。
①好きを仕事にする
②給料の多さで選ぶ
③業界や職種で選ぶ
④仕事の楽さで選ぶ
⑤性格テストで選ぶ
⑥直感で選ぶ
⑦適性に合った仕事を求める
いずれもよく見かけるアドバイスですが、残念ながら、これらの行動はすべて大間違い。短期的には喜びの感覚を与えてくれても、長期的には人生の満足度にはなんの関係もないどころか、ヘタをすればあなたを不幸に落とし込みかねません。

P.40から41より引用

どれも聞いたことがあるキャリアアドバイスですし、著名人が口にしているのも見かけます。①~⑦の中で特に衝撃を受けた①と③と⑦についてみていきます。

好きなことで選ぶ

「好きなことを仕事にしよう」ってアドバイスは、孔子からスティーブ・ジョブズまでいたるところで聞きます。
職探しでこれほど受け入れられている考え方も他にないと思いますが、キャリア選択としては正しくないようです。
そもそも、孔子もジョブズも「好きを仕事に」していた訳ではないですし(孔子は政治の世界を望んだもののうまくいかず、ジョブズは儲かるからエレクトロニクスの世界に入りました)。

2015年、ミシガン州立大学が「好きなことを仕事にする者は本当に幸せか?」というテーマで大規模な調査を行いました。数百を超える職業から聞き取り調査を行い、仕事の考え方が個人の幸福にどう影響するかを調べたのです。
研究チームは、被験者の「仕事観」を2パターンに分類しました。
適合派:「好きなことを仕事にするのが幸せだ」と考えるタイプ。「給料が安くても満足できる仕事をしたい」と答える傾向が強い。
成長派:「仕事は続けるうちに好きになるものだ」と考えるタイプ。「そんなに仕事は楽しくなくてもいいけど給料は欲しい」と答える傾向が強い。
(中略)
適合派の幸福度が高いのは最初だけで、1~5年の長いスパンで見た場合、両者の幸福度・年収・キャリアなどのレベルは成長派の方が高かったのです。

P.42から44より引用

当たり前ですが、好きな仕事だろうと面倒ごとは起こります。好きな仕事を求める気持ちが強いと、面倒な現実と理想の間にギャップを感じやすく幸福度が下がる訳ですね。
成長派の方は、仕事に期待していないので面倒があっても「仕事とはこんなものだ」と思えるってことです。

こういう結果を見ると仕事に対する情熱が持てないように感じてしまうかもしれません。本書では「情熱を持てる仕事を探す」ことについても言及されてます。

2014年にロイファナ大学が多数の起業家にアンケートを行い、それぞれが「いまの仕事をどれだけ天職だととらえているか?」を尋ね、「仕事に投入している努力の量」や、「毎日どれだけワクワクしながら働けているか?」といったポイントをチェックしました。その結果わかったのは、次のような事実です。
・ 今の仕事に対する情熱の量は、前の週に注いだ努力の量に比例していた
・ 過去に注いできた努力の量が多くなるほど、現時点での情熱の量も増加した
(中略)
その仕事に情熱を持てるかどうかは、あなたが人生で注いだリソースの量に比例するのです。

P.46から48より引用

どこかに情熱を注げる仕事が存在している訳ではなく、どんな仕事でも、努力するうちに情熱が高まり、天職と感じるレベルになる可能性がある訳ですね。

伸びる業界・職種や自分の興味・嗜好で選ぶ

いろいろな専門家や機関が業界の未来を予測し信憑性がありそうな情報を出しています。それらを参考にこれから発展が見込まれる業界・職種を選択するのはよくあることだと思います。しかし、それは正しくないようで…

どれだけ知名度のあるエキスパートだろうが、予想の精度はコイン投げと変わらないのです。
その点でもっとも有名なのは、ペンシルバニア大学のデータでしょう。研究チームは、1984年から2003年にかけて学者、評論家、ジャーナリストなど248人の専門家を集め、3~5年後の経済や企業の状況、政治などがどうなっているか予想させました。
(中略)
28,000超の予測データをすべてまとめたところ、結果は「専門家の予想はほぼ50%の確率でしか当たらない」というものでした。
(中略)
3年先の未来すらまともに見抜けないのだから、10年単位のスパンで経済や企業の変動を見抜くことができる人などこの世に存在しません。いまとなっては信じがたいものの、1980から1990年代にかけては、多くのエキスパートが「日本はすぐ世界経済のトップになる」と予測していたのは有名な話です。

P.62から65より引用

これから伸びる業界、注目されている職種に目が向くのは人情ですが、10年後どころか3年後すらどんな変化が起きているか予測できない世の中で、伸びる云々を判断基準にするのはよくないみたいです。

さらに、専門家が業界の将来を予測できないように、私たちに自分の将来を予測することはできないようです。

あなたがいま興味のある業種や職種に就こうとするのも、問題の大きい考え方です。
(中略)
一例として、ハーバード大学などが行った大規模なリサーチを見てみましょう。研究チームは18~68歳までの男女19,000人以上を集め、まずは各自の好きな人のタイプや好きな趣味、お気に入りの職業といった幅広いポイントを調べ上げました。そのうえで、被験者に2つの質問をします。
①「今後10年であなたの価値観や好みはどこまで変わると思いますか?」
②「過去10年であなたの価値観や好みはどこまで変わりましたか?」
これらのデータセットを照らし合わせたところ、人間の好みの変化には一貫した傾向が認められました。18~68歳までのどの年齢を取ってみても、ほぼすべての被験者が、10年のあいだで自分の身に起きている変化を過少評価していたのです。
(中略)
大半の人は「現在の価値観や好みがもっとも優れている」と思い込み、過去に起きたような変化が未来にも起きる可能性を認めません。
しかし、実際の世界は、専門家も予想できないペースでめまぐるしく移り変わり、その状況に応じてあなたの好みと価値観も変わり続けます。いま特定の業種・職種を選んだとしても、数年後に後悔している可能性は十分にあるでしょう。

P.65からP.67より引用

専門家の予測も自分の興味・嗜好もキャリア選択の判断基準としては当てにならないことが分かりました。よく言われるポイントだっただけに驚きました。
ちなみに、あくまでもキャリア選択の判断基準にはならないだけで、それらの情報を知ること自体は大切だと思います。
すでに就いている仕事でその情報を活かせる場面はあると思いますので。

自分の「強み」を生かせる仕事を選ぶ

自分の強みを生かせる仕事を選ぶことは、もはや必須と思ってましたが、そうでもないようです。

ポジティブ心理学の生みの親であるマーチン・セリグマンは、7,348人の男女を集めて全員の「強み」と仕事の満足度を比べる調査を行いました。その結果わかったのは、次のようなポイントです。
①「強み」と仕事の満足度には有意な関係があるものの、その相関はとても小さい
② その組織の中に自分と同じ「強み」を持った同僚が少ない場合には、仕事の満足度があがる

P.91から93より引用

頷ける気がしますね。自分が思う「強み」が周囲に評価されるから満足度が上がるわけです。それはつまり、「強み」でキャリアを選んだ場合、周囲の人間によっては満足度が上がらないことになってしまいます。
なので、「強み」を判断基準にするのもいまいちってことですね。

ちなみに、自身の強みを把握すること自体は、「キャリア選択」以外で用いる分には有用です。すでに就いている仕事の満足度を高めることにつながります。

ステップ2 未来を広げる

では、結局どんな基準で仕事を選べばいいのでしょうか。それを知るために「キャリア選択に失敗する理由」と「正しいキャリア選択に必要な条件」が説明されています。

キャリア選択に失敗する理由

適職選びに誤ってしまう大きな原因は「視野狭窄」にあります。特定の選択肢のみ意識が向かい、それ以外の未来の可能性に頭が行かなくなってしまった状態です。
(中略)
たいていの人は「この仕事が良さそうだ」と思った直後から思考が狭まり、それ以外の選択肢に目を向けられなくなってしまうのです。このままでは、いつまでたっても最適な仕事は見つかりません。

P.98からP.101より引用

自分の選択は正しいと思いたいものですし、仕事をしながら転職活動する場合は時間に追われる状況もあり、よけいに視野狭窄に陥りがちですよね。
しかし、正しいキャリア選択のためには、そこから発想の幅を広げて自分の狭い視野から逃れないといけないです。

ただ視野を広げろと言われても無理なので

「あなたの仕事人生を幸せに導くために必要な要素とは何か?」というポイントです。なんの手がかりもなしに「視野を広げよう!」と言われたら途方に暮れてしまうものの、幸福な仕事に必要な条件がわかれば選択肢を増やすためのとっかかりになるでしょう。
(中略)
①自由:その仕事に裁量権はあるか?
②達成:前に進んでいる感覚は得られるか?
③焦点:自分のモチベーションタイプに合っているか?
④明確:なすべきことやビジョン、評価軸ははっきりしているか?
⑤多様:作業の内容にバリエーションはあるか?
⑥仲間:組織内に助けてくれる友人はいるか?
⑦貢献:どれだけ世の中の役に立つか?
(中略)
これらの要素がそろった仕事であれば、どんなに世間的には評価が低い仕事でも幸せに暮らすことができるわけです。

P.101から103より引用

進路が見えてきたら、そのキャリアは幸せに続く道なのかを上記の①~⑦を使ってチェックします。満たせているならOK、満たせていないならもっと視野を広げて他の選択肢を探しましょう。

進路が曖昧な場合は

進路がまだ曖昧な場合には、①~⑦の中から1つ選んで、それを満たせる転職先を探してみると意識に引っかかってきます。

①自由:仕事をする時間・場所・ペースを自分で決められそうな仕事や職種は他にないだろうか?
②達成:仕事のフィードバックをハッキリと確認できそうな仕事や職種は、他に何があるだろうか?
③焦点:自分のモチベーションタイプ(攻撃型or防御型)を生かせそうな仕事や職種は、他にどのようなものが考えられるだろうか?
④明確:タスクの内容と評価システムがもっとハッキリした仕事や職種とは、どのようなものだろうか?
⑤多様:プロジェクトの川上から川下まですべての工程に関われそうな仕事や職種は、他にないだろうか?
⑥仲間:自分に似た人が多そうな仕事や職種は他にないだろうか?仲良くなれそうな人が多い仕事や職種は他にないだろうか?
⑦貢献:もっと他人への貢献が目に見えやすいような仕事や職種は他にないだろうか?より多くの人の役に立てそうな仕事や職種はないだろうか?

P.145からP.146より引用

ステップ3 悪を取り除く

職場のネガティブな要素についても説明されています。人間はネガティブな経験の方が心に残りやすく、ポジティブな経験との比率は6:1だそうです。
仕事で1つミスしたら6つ成功させないと埋め合わせはできません。

キャリア選択でも同じで、上記のステップ2の①~⑦を満たせていても職場にネガティブ要素があればメリットが無になりかねません。どんなポイントを排除しないといけないか説明されてます。

職場の「8大悪」ワーストランキング

メタ分析によれば、それぞれの「悪」をダメージが大きい順番に並べると、次のようになります。
①ワークライフバランスの崩壊
②雇用が不安定
③長時間労働
④シフトワーク
⑤仕事のコントロール権がない
⑥ソーシャルサポートがない
⑦組織内に不公平が多い
⑧長時間通勤

(中略)
目当ての会社に当てはまる点がないかどうか、いま一度チェックしてみてください。

P.171から172より引用

「作業負荷」と「仕事の不安定さ」の影響が大きいみたいです。ステップ2の①~⑦とも関連していて、「自由」や「明確」の項目が満たせていない環境は「8大悪」に引っかかってきます。

職探しで「8大悪」を見抜くには

では、どうやって「8大悪」がある企業かを見分ければいいでしょうか。

面接官からネガティブな側面を聞き出そうとする人は意外なほどいません。人生の方向を決める一大事にも関わらず、いざ面接となると遠慮してしまうケースが実に多いです。
(中略)
面接官に尋ねてもいいし、従業員へ直に聞いてみるのもいいでしょう。「賃金の査定システムは?」「社内の競争は激しいか?」「仕事の裁量権はどこまであるか?」など、先に挙げた「職場の8大悪」に関することは最低でも聞いておいてください。
ここでもし相手が質問に口ごもったり、嫌な顔を見せたり、明確な答えを返すことができなかったら危険信号。その会社には問題があると言えるでしょう。

P.173より引用

面接官に聞いてしまうということですね。遠慮する気持ちはありますが、自分の人生の一大事なので質問していきましょう。

これで「キャリア選択」に必要な判断軸であるステップ1から3を理解しました。ここからは、意思決定ツールを用いて取捨選択すること、自身のバイアスを意識してそれを外すための手順を確立し意思決定する必要があります。

そちらは本書に詳しくありますので、本書を読んでいただければと思います。ぜひ、自分が幸福になれる「キャリア選択」をしていきましょう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?