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書評講座 Vol. 1

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課題書: 1)『エルサレム』- ポルトガル、ゴンサロ・M・タヴァレス著、木下真穂訳、河出書房新社、2)『キャビネット』- 韓国、キム・オンス著、加来順子訳、論創社、3)『クィーン… もっと読む
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#キム・オンス

【書評】正常と異常の境目とは 『キャビネット』キム・オンス著|加来順子訳

ものすごく足が速ければオリンピック選手で、ものすごく手が長ければビックリ人間だ。才能とは、個性とは、体質とは、どこまでが正常で、どこからが異常なのだろうか? キム・オンス著『キャビネット』は、正常と異常、現実と虚構の境界をぼかして読者を煙に巻く。 〈ポスト人類〉相談窓口 主人公のコン・ドックンは〈安定が一番〉という母の遺言に従い、とある公企業になんとか就職を果たした。だが、百三十七倍の倍率を突破して、いざ職場に行ってみれば、仕事とよべる仕事はほとんどなく、待っていたのは〈

『キャビネット』キム・オンス著/加来順子訳<風変わりな人々の、身につまされもする物語>

ときおりツイッターのタイムラインに流れてくる『虚構新聞』の記事を目にしたことはあるだろうか。どう考えてもありえないようなニュースが大真面目に書いてある。洒落がきいていて、どうかすると現実の世界を強烈に皮肉る内容になっていることもある。 二○○六年に発表され、キム・オンスの代表作となった本作『キャビネット』は、火山の噴火で一瞬に消えた町で唯一生き残った男の短い話が語られたあと、「虚構新聞」もハダシで逃げ出すほど荒唐無稽なショート・ショートがつぎつぎに展開する。ガラスを主食とす