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物書きを自称する人

物書きを自称する人①:

ベルトコンベアーの上に載せられたカップラーメンの箱の上に、緑色の蛙が一匹潰れて死んでいるのを見た時からずっと、自分の二の腕にひっついている気味の悪い蛭をひっぺがすために、原稿に向かう人。


物書きを自称する人②:

流産した赤ん坊を弔うために、涙を流しながら産前の自分の行いに対する反省文を書く人。


物書きを自称する人③:

同じ穴のむじなということわざを、自分の中で決着をつけるためだけに、芥川賞に応募する人。


物書きを自称する人④:

数年前に外国に行ったときに、はずみで吸った大麻の味に執着し、それを反芻したいがために瞑想と夢日記をつける習慣を欠かさない人。


物書きを自称する人⑤:

幼稚園の頃、徒競走で負けた思い出をずっとひきずっている人。


物書きを自称する人⑥:

若い頃に時間を持て余したせいで本を読み過ぎ、「自分は変わり者だ」みたいな強迫観念にかられた結果、自分の内的世界に自信を持ち過ぎてしまったことが仇で個性を失ってしまった人。


物書きを自称する人⑦:

老獪な商人。


物書きを自称する人⑧:

自分の前世が蛇であると疑わない人。


物書きを自称する人⑨:

旅行先でたまたま聞いた、車のドアをスマートキーでアンロックする音が「ピュイピュイ」だったか、「ポワポワ」だったか、適当な擬音語が思い出せずに広辞苑を引く人。


物書きを自称する人⑩:

聖職者。


物書きを自称する人⑪:

誠実な心を持って社会問題と己の心の中の問題をすり替える人。


物書きを自称する人⑫:

「阿武隈川を渡った先に、半縄文の袈裟をかけた坊主が一人、托鉢を持った腕に生えている毛の一本一本を逆立てながらこちらを見ているのが感じられる、そんな夜に」から書き始める人。

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