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民主主義とデジタルテクノロジー

 私たちは生きている間ずっとなんらかの意思決定をしている。では、その“意志”は自分のものなのだろうか。
 意思決定論の名著であるダニエル・カーネマンの『ファストアンドスロー』では、人間が意思決定するメカニズムとして二重過程理論を用いてシステム1とシステム2を提唱しており、素早く感情的な前者と遅く論理的な後者とに分けている。
 民主主義はシステム2によって生み出された産物であり、デジタルテクノロジーはシステム1に働きかける。ジェイミー・バートレットは『操られる民主主義』の中で民主主義の特性をこのように表している。

民主主義はもっと緩慢で、検討に次ぐ検討を重ねていくものであり、具体的な事物を、土台にしている。デジタルではなくアナログに根ざした原理なのだ。それだけに、人々の現実や願望に反する未来像は、いかなるものであれ、思いがけない不幸ををもらたす結果になってしまうだろう。
ジェイミー・バートレット『操られる民主主義』2020

このように、民主主義とデジタルテクノロジーはその特性や成り立ちから相入れないものなのである。
 そして、デジタルテクノロジーの産物であるSNSの登場は民主主義という原理の根幹を揺らすものであった。SNSはシステム1と相性が良く、即時的で感情的なものになる傾向がある。即時的で感情的な人間は、民主主義の根幹である熟慮と妥協による決定を妨げるため民主主義の機能不全を引き起こす。これは民主主義が時代遅れになったというより、SNSのようなデジタルテクノロジーと民主主義の相性が悪すぎると言った方が良い。
 近年、日本でも時々話題になるネット投票についても同じことが言えるだろう。ジェイミー・バートレットは、電子投票の効果についてこのように述べている。

安全で手間も省ける電子投票の掛け値なしの見通しによって、週ごとに国民投票が可能となる道が開かれていく。だがこれは、きわめて魅力的な罠で、「システム1」の政治の台頭をますますあおるだけである。
ジェイミー・バートレット『操られる民主主義』2020

 つまり、アメリカのトランプ大統領やイギリスのブレグジットなどはこのような民主主義と相入れないデジタルテクノロジーによって生じた現象である。そして、このような現象はデジタルテクノロジーの発展が進むにつれて、さらに起きることが予想される。さらに残念なことに、デジタルテクノロジーは私たちから熟慮や妥協といった民主主義の根幹にある能力を奪っていくのである。
 では最後に、私たちができることを考えたい。端的にいうと、それはSNSを使うことを控えて、リアルな友達と会話をすることである。まずTwitterやInstagram、Facebookをやめるか通知を切り必要最低限しか使わないようにしよう。そして空いた時間をリアルな友達や家族、恋人と話をする時間にしよう。そうして他者との関わりの中で、熟慮することや妥協することを通じて人間として成長できるようにする。結局、民主主義を復活させるにはデジタルテクノロジーとの距離を見直していくしかないのだ。

参考文献
ジェイミー・バートレット『操られる民主主義』草思社,2020
ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー』早川書房,2014

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