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プロダクトデザイナーが語る、思いをカタチにした「BONX mini」

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近年、世界中で注目されているヒアラブルデバイス。完全ワイヤレス・ヒアラブル機器の世界市場は2020年に1.29億台に達する見込みがあるという調査結果もあります。そんな中で、国内のヒアラブルデバイスを提供する会社として挑戦している当社BONX。代表の宮坂がスノーボードで会話を楽しめるデバイスをつくりたいと「BONX Grip」を世に送り出し、新たに小型・軽量化し手に取りやす価格の「BONX mini」をリリースしました。

ものづくりにおいて、思いをカタチにするためにはデザイナーの存在は欠かせません。今回は、「BONX Grip」そして「BONX mini」をつくったBONXの頼れるプロダクトデザイナー、BATTLES DESIGN株式会社の代表、百崎彰紘(Akihiro Momozaki)さんに開発を振り返っていただきました。

「音楽業界でものづくりをする」熱い漢とBONXが出会った

昔から音楽が大好きで将来はイヤホンやスピーカなど音楽に関わるハードウェアのデザインがしたいなと思っていました。就活時期には、当初国内の音楽機器メーカーなどを見ていました。加えて、将来的には独立したいという思いもあったので、音楽関連のデザインに携わりつつ、なるべくいろんなジャンルの製品開発に携わり、デザインだけではなく商品開発全体を勉強したいという思いで就活をしていました。結果、オーディオブランドではなくデザイン事務所でもなく、メーカーを選びました。

インハウスデザイナー時代は、パソコンやスマートフォン、オーディオ関連の周辺機器開発に数多く携わりました。中でも元々やりたかったイヤホンやスピーカーのデザインをする機会も多かったので、やりたいことをやりながらデザイン以外のこともたくさん吸収することができました。まさに願ったり叶ったりです。
その後独立し、2013年に福岡県でプロダクトデザインを中心としたデザイン会社「BATTLES DESIGN(バトルス デザイン)」を設立しました。東京の仕事も多くなったタイミングで、東京に出てきたときに、知人を通してBONXをつくりたいという代表の宮坂さんと出会いました。

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たまたま年齢も一緒で、いろいろと話をさせていただくうちに話が盛り上がっていきましたね。スノーボードのシーンで活用できるデバイスをつくりたいという宮坂さんの熱意を聞いて、デバイスの可能性も感じましたし、それ以上に人として魅力を感じ、一緒に仕事をしたいと思いました。製作に対して、可能性を最初から排除しないやり方、思考に共感しました。ものづくりをする人間としても、自身の持てる力を発揮したいと思わせてくれたんです。これはぜひ一緒にやってみようということになって。CTOの楢崎さんも、そのぐらいのタイミングで入って、何もないところから3人でBONXの製作が始まりました。

どんな壁も乗り越えていけるだろうと、ワクワクする。そんな会社だと思ったからこそ、私も一緒にプロダクトをつくりたいと思い、「BONX Grip」「BONX mini」のプロダクトデザインに携わらせていただいています。

使う人に思いを馳せ、デザインとテクノロジーのバランスをとる


「BONX mini」のデザインのポイントとして、見た目がおしゃれとかかっこいいと心が動かされる情緒的な側面、それから快適に使用できる使い勝手の良さは大切にしました。
例えばコップの場合、そもそも人に被害を与える可能性のあるものではないですが、「BONX mini」のように人が身に着けるものとなると、身体に優しく違和感のないものにするのが大事になってきます。これまでも、他のメーカー様のイヤホンを製作してきたノウハウを活かして、つけ心地の良さを重要視して製作に取り組みました。

「BONX Grip」は企画の骨子としてスノーボードなどハードスポーツのシーンでも使用できるデバイスを想定していたので、ボタンを押しやすくするために大きくし、耳にしっかり固定できるように耳の周囲をシリコンで覆ったりしたため、結果的に存在感のある大きさになりました。。そこから、今回の「BONX mini」は小型化・低価格でつくりたいという要望の中で、「BONX Grip」にあった要素を生かしながら、どれだけ小型化できるか検討を重ねました。

デザインにあたっては、当社のメンバーでジャンルを問わず世の中にありとあらゆるプロダクトを出して、スタディーするところから始めました。例えばシューズ、雑貨、生活用品など、とにかくなんでもです。最初は見た目で「あ、いいな」と個々人が思うプロダクトを見つけ、そこから「機能的」「かわいい」「カッコイイ」などキーワードにして収集していきました。大量に出された中から、面白いと思う部分を切り取って、「BONX mini」に活用できる形などがないかを検討していきました。
プロダクトによって、意匠として入れているパターンや意味を持たせてデザインされているものがあったりします。そういったところを当社メンバーで出し合って、見た目や素材で良いと思うものを揃えてから、ふるいにかけてデザインを選択していくという作業をしました。

また、安価にしたいというのがあったので、パーツ数、素材などプランごとに価格が変動する中で、デザインの段階で量産時の価格や難易度を検討しながら進めていきましたね。デザイン段階から価格をみながら進めていくのは珍しくて。デザインが決定してから通常は、さて予算に見合うのだろうかと価格を検討していくのですが、つくったあとにコストが合わないということを避ける意図もあって、金額の肌感は常に把握した状態で進めるというやり方を採用しました。

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とにかく可能性をたくさん持って、どれでも最終的にかっこいいものになるという考えのもと、何よりも使い手の使いやすさを追求していきました。
試作でいうと1プロジェクトで100個くらいつくっているんです。10個の試作で実現させることができたらもちろんいいと思うんですけど、さまざまな可能性を追求しようとすると妥協できなくて……(笑)。大体100個近くはいきますね。それぐらい揃うと私たちとしてもいいなと思うプロダクトになっていくんです。

Bluetoothのイヤホンは電波の問題やマイクの性能、スピーカーの聞こえやすさ、音質の良さとかデザインとは別のポイントがあったりするので、デザインを推しすぎると技術面で妥協せざるを得なくなることもあります。必要な技術は確実に搭載できるように、エンジニアさんに聞きながら問題点を網羅した状態でデザインをしていくようにしました。

実際に買うときは、見た目で判断するところも大きいはずです。そのため、情緒的な見栄えは大事にしました。ハードウェアは、女性よりも男性のほうが好きな方が多い傾向にありますが、男女問わず「BONX mini」を通じて会話を楽しんでいただきたいので、かっこよさとかわいらしさの両方を見出せるフォルムを意識して、丸みのある形を採用しています。

こうして、3ヵ月の期間で製作していきました。

つけ心地のよいデバイスを徹底追求

今回の「BONX mini」は価格が大事なポイント。Gripは14,630円だったので、グループトークをしたいと思ったときに、2人ぐらいであればまだ購入に抵抗はないかもしれないですが、3人以上になってくると人によってはGripが高額に感じるかもしれない。そうなって体験する人が少なくなってほしくないので、ユーザーさんが体験していただきやすい価格にすることは非常に重要でした。

「BONX Grip」よりも部品点数を減らし、技術的な部分は維持できるだけ維持しながらいかにして低価格にするか。その点を意識しながら出されたデザインの中で、長さや先端のツノの保持、左右兼用にするためにどうするかなどあらゆる角度からの検討を行いました。

バッテリー駆動時間を意識した、ボディーの長さ
検証しているときには、耳から出る部分が結構長いものがありました。バッテリーの駆動時間を延ばそうとすると、搭載電池自体に長さが必要なので全長も長くなる。そのため、電池のバリエーションを出していきました。何時間持たせたいから何㎜という感じで。つけてて違和感のない寸法や見た目、バッテリーの持ちをそれぞれ解決できる落としどころを地道に探っていきました。
理想はもっと短くてもいいと思っているくらいですが、長さがあるとバッテリーの持ちだけでなく、口に近づくので声の集音性が上がるというメリットもある。それを探っていって、縦の長さは約50㎜になりました。現時点では3.5時間、充電器を使用すれば最大18時間使用できる長さです。

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「痛み」をどれだけ排除できるか
根気強く行った点としては、耳につけることによって生じる「痛み」がいかに出ない形状にできるかというところです。誰もが痛くないと言えるものを製作するのは非常に難しい。おしゃれな形にすることよりも(笑)。デバイスの形状や身に着ける時間によっても、痛みの変化や感じ方はそれぞれです。そのため、デバイスの長さや奥行などを変えてサイズバリエーションを10パターンくらい出して、それぞれのパターンに対して20~25くらいのサンプルを取り、アベレージを出していきました。痛みの出方はそれぞれですし、パターンによって「どれがフィット感がいいか」「外れにくいか」などを集計して、男女問わず収まりがよくて痛みが出ないのはどのポイントかを地道に探っていきました。終盤は、棒ヤスリでイヤホンをちょっと削って装着テストをしてを繰り返して、みんながOKとなった段階で実物からリバースエンジニアリングして設計図面を作りました。

また、両耳に装着が可能となれば痛みを少しでも回避できる方法になるので、当初はシリコンを付け替えることで左右兼用を実現しようと試作していました。しかし、その方法では新しいモデルが出るたびに付け替えの必要が出たりするので、ユーザーさんにとって煩わしくなります。そのため、誰でも使うことができて、買い足す必要のないものをつくりたいというのがありました。メーカーとしても、メーカー型番というのがあるので型番が少ないほうが管理しやすいというのもある。そこで、出たのが「ツノ」でした。回すことができるようになっているので、付け替えなどの作業もなく左右兼用にできるんです。
角は形状や丁度良い先端の長さを見つけるのが難しい。柔らかいシリコンをつけても取れないようにするためにはどうしたらいいのか……といった複雑な構図をどう実現するか何度も検証を繰り返して辿り着いた感じですね。

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一人ひとりの声を大切にして「BONX mini」ができた

プロダクトデザイナーとして、自分なりにこうだという考えを持ちつつ、あらゆる可能性を持って議論したいのでアイデアはたくさん出します。BONXは、基本的に共創プロジェクトが多いと思います。みんなで体験して議論し、みんなで解決策を考える。それを私が代表して具現化していくという進め方をしています。

アンケートの声を参考にするだけではなく、BONXのメンバーから出される使い手の目線に立った意見も参考にしていましたね。ふらっと私のもとへやってきて、「百崎さん、サンプル使ってみたけどこの位置がちょっと違和感あります」って些細なことも伝えてくれるんですよ(笑)。私も問題点を解消してまた彼らに試してもらったりして。直接のプロダクト製作の担当者ではなくても、ものづくりをする意識があるし、小さな積み重ねがプロダクトへの思い入れへとつながっているのではないのでしょうか。いろんな人たちと会話をしてつくりあげたプロダクトは、結果的にいいものになると思いますね。

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※BONX Gripの左耳パーツは社員全員でフィッティングを確かめながら制作。

ものづくりに直接関係しないアプリエンジニアの方も、ものづくりに前のめりでいてくれる。ものづくりなので分業化する会社様も多いですが、BONXメンバーはそれぞれの役割がありながらも、ひとつのプロダクトに対してみんなが関わるという姿勢や熱量があると感じます。自分事として関わると、一人ひとりが一つのプロダクトに思い入れを持って取り組める。そんな方たちがいる環境でデザインできるのは、勉強にもなりますしつくるのが楽しいですね。デザイナーが一人で振り返るのではなく、「こんな試作つくったねー」とBONXメンバーとともに懐かしむこともできるのも嬉しいですよ(笑)。

BONXは、代表の宮坂さんやCTOの楢崎さんはじめ、メンバーの方たちが一緒に向上していこうとする気概を持って、プロダクト製作をしています。デザイナーだけがスキルが高まっていくのではなく、みんなが高まっていくというのが面白い。そんなメンバーたちと一緒につくりあげてきた「BONX mini」を私もお客様にお勧めしたいです。

互いが向上する関係性があることがありがたいですし、これからもしっかりと私たちの価値を提供して、ユーザーさんの声やBONXメンバーの思いをカタチにしていきたいと思っています。気軽に手に取り、グループ会話を楽しんでほしいとつくりました。「BONX mini」をぜひ試してみてください!

\こんなオプションパーツも!/
「BONX mini」は本体自体に風切り音対策機能はありません。オプション品として風防を販売しています。パーツを先端にはめてご使用いただけます。

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<プロフィール>
BATTLES DESIGN株式会社
代表・プロダクトデザイナー
百崎 彰紘(Akihiro Momozaki)

大学卒業後、メーカーにてPCやAV、スマートフォン関連の周辺機器開発に従事し、1,000を超えるプロダクトを世に出す。2013年に福岡にてBATTLES DESIGN(バトルス デザイン)を設立し、従来から得意とするデジタル機器、周辺アクセサリー、IoT関連デバイスのプロダクトデザインを中心に、企画からデザイン、生産まで幅広くサポートしている。Good Design Award、IF Design Award、Red Dot Award、JIDA DESIGN MUSEUM SELECTIONなど受賞歴多数。