緑の絨毯

夜遅くに炊事をして朝早くに朝露を汲みにいく。
それが私の毎日の基盤だ。
毎日滞りなく行えるわけでは決してない。
昨日も行わなかったし、多分今日も行えない。

するとそうか、今日はきっと彼女が来る。

「こんばんは、近くまで来たものだから、これをどうぞ」
手渡すは夜露、それがいっぱいに入ったジュエルケース。

「いいんです、こんなもの。
必要がないんですよ、私には、本当に」
やんわりと断るが、彼女はきっと引かないだろう。
分かっていて言っている。
多分、空に星を降らせているのも彼女だろう。
そんなものに、あらがいようもない。

「はい、どうぞ、素敵な夜をね」
「...おやすみなさい」

案の定。

私は渡された夜の露をどうしたもんかと立ちつくした。
良い案が浮かばないまま腕が痺れ、
ひとまずの間、ダイニングテーブルにそっとそれを置いた。

それは基本、形を成さない。
形を成すのは、いつもこんな夜ばかりで、
私はもういっぱいいっぱいになってしまうのだ。

はじめに笑顔で受け取ったのが悪かった。
もういまさら、変えようがないことだが。

もう崩せない。
私は流れのままに、それを溢した。

飲み込まれて崩れていったのは、
周辺の光と人々がすむ更地、番地・5-4-5

ひざを抱えて座りこむ。

芝生が凪いでゆく。
私のかたちに沿って、そっと凪いでゆく。

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