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しりとり小説

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くすり【薬】(しりとり小説第8話)

くすり【薬】(しりとり小説第8話)

ぼくは本当に、昔からぼくが嫌いだ。
今年で28になるけど、頭は悪いし気が利かないし要領がわるい。おまけに人を妬むし嫌うし悪口を言う。適度に自分や他人に嘘をついて、自分を保とうとする。好きなこと、夢中になれることなんて思いつかないし、将来へのビジョンもない。なんとなく周りにおくれを取らないように必死になるけど、ずっと偏差値55くらいの結果しか出せない。いっこくらい、心から好きだと思えるもの、夢中にな

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ピロー‐トーク【pillow talk】(しりとり小説第7話)

ピロー‐トーク【pillow talk】(しりとり小説第7話)

夫婦・愛人どうしが寝室で交わす会話。睦言 (むつごと) 。

その日は朝9時から16時までの出勤だった。
昼過ぎまでに3人を相手したが、大抵14時を過ぎると暇になるので、今日はもう指名はないだろうと更衣室の着替えに手をかけた矢先、
「美沙ちゃん、指名入っちゃってさ、もう一人相手できる?」と声がかかった。

グロスを塗りなおし、待合室へ行くと、そこには30代前半らしき小柄な男が立っていた。
よれたユ

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だっぴ【脱皮】(しりとり小説第6話)

だっぴ【脱皮】(しりとり小説第6話)

昆虫類や爬虫(はちゅう)類などが、成長のため古くなった外皮を脱ぎ捨てること。

むかーしむかし、遠い昔。
あれは忘れもしない、おかんの誕生日。

「夏休み」という言葉が連れてくる魔法にも冷め、その実態が単なる「退屈の塊」であることを思い出す、小3の8月5日。

その時、俺は幼馴染のヨーヘイに連れられて、学校裏の林にいた。

俺もヨーヘイも両親が共働きだった。朝は俺が起きるより早く家を出て、夜は19

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らく だ 【駱駝】(しりとり小説第5話)

らく だ 【駱駝】(しりとり小説第5話)

肩高2メートル 内外ほどの大形草食獣。背のこぶに養分を貯蔵し、鼻孔を閉じることができる。足の裏は丸く広がった肉質部があって砂の上を歩くのに適し、長時間水を飲まずにいられるなど、砂漠の生活によく適応した体をもつ。家畜化の歴史は古く、古代より「砂漠の船」とよばれて乗用・運搬用に使われ、毛・皮・肉・乳も利用された。

「君たち人間は、驚くほど例外なく、病を持っているね。それは、人によりフィジカルであり、

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くじら〔くぢら〕【鯨】(しりとり小説第4話)

くじら〔くぢら〕【鯨】(しりとり小説第4話)

クジラ目の哺乳類の総称。世界の海洋や一部の大河川に分布。肺呼吸する際、吐く息とともに付近の水を吹き上げ、潮吹きとよばれる。生息数が激減したため国際条約で保護される。

「大きいものは強い」
これは、ある程度普遍性のある定義だと私は考える。

かくいう私がその典型だ。
私は、世の中のあらゆる生物の中でも「身体が大きい」部類のようだ。その大きさゆえに、獰猛で鋭い歯をもつ"さめ"のような生き物も私には近

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ごくらく 【極楽】(しりとり小説第3話)

ごくらく 【極楽】(しりとり小説第3話)

① 「極楽浄土」の略。
② 安楽で何の心配もない場所や境遇。天国。 ⇔ 地獄
(三省堂 大辞林 第三版)

「極楽の掟」

気がつくと、大きな字でそう書かれた巨大な看板の前に僕は立っていた。
巨大ってどのくらいかというと、とにかく大きいとしか言いようがない。
うーん、周りに、その看板とサイズを比べるものがないからなんとも言えないけれど、
感覚的には、越谷レイクタウンまるまる一つ分、、、という感じ

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りんご【林檎】(しりとり小説第2話)

りんご【林檎】(しりとり小説第2話)

“Even if I knew that tomorrow the world would go to pieces, I would still plant my apple tree.”
「明日世界が終わるとして、それでも私はリンゴの木を植える」
(Martin Luther 1483.11.10 - 1546.2.18)

2019年 10月19日 17時46分 ー

俺は、長野駅に併設され

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しり とり 【尻取り】(しりとり小説第1話)

しり とり 【尻取り】(しりとり小説第1話)

言葉の遊戯。前の人の言った言葉の最後の音を語頭にもつ言葉を順々に言い合う遊戯。「あめ・めだか・かい・いす」のように続ける。
(三省堂 大辞林 第三版)

「しりとりでも、しますか。」
ちょうど御殿場ICを過ぎたあたりで、黒塗りのクラウンを運転する若い男が突然そう口にした。

しりとり。それは、相手の発した単語の最後の音を語頭にもつ言葉を言い合うだけの、退屈な遊びを指す。
いつ、どのタイミングで私

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