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騙し、騙され -その9 タイ・人の良すぎる友人編-

前回までのあらすじ
月商一億を叩き出した伝説の営業マン、山谷銀河。彼のセミナーは毎回即満席。そんな彼が突然全てを捨て、山で取れるきのこ観察に没頭し始める。『きのことYシャツと私』を含む126篇の珠玉のエッセイ集。


-人の良すぎる友人の話-
ちょっと、自分とは真逆の世界に生きている友人の話をしてみる。
彼もまた、タイに住んでいる日本人だ。
地方出身という事も影響しているのか変なところ警戒心が緩く、情にもろい。
こういうタイプは、詐欺師には絶好のカモになるだろう事は、詐欺師ではない私にも想像に難くない。
彼のこれまでの騙され遍歴はかなりのものがあるのだが、タイでの話だけに絞ってみる。


おばあちゃん

彼が夕方ご飯を買いに出かけると、道端に一人のおばあちゃんが座り込んでいた。
声をかけると、

「足が痛くて歩けない。病院に行きたくてバスに乗りたいのだがお金がない。100バーツくれないか」

ここから病院までは少し距離がある。
大変そうだなと思った親切な彼は、

「じゃぁ僕がバイクで病院まで送りますよ」

足が痛いのにバスに乗るのも大変だろう。
しかも痛いのを我慢して、いつ来るかわからないバスを待たせるのもかわいそうだ。
そう思い、すぐに病院に送ってあげる手段を提案したのだ。
しかし、おばあちゃんは

「いや、大丈夫だ。100バーツくれないか」

もう、バスの話も病院の話もなくなった。
金の話だけである。
さっきまでと違い具合も悪そうではなく、ギラギラした目である。

普通ならここで気づくはずだし、何なら彼も気づいたはずである。
彼は、100バーツをおばあちゃんに渡した。
すると、おばあちゃんはすっくと立ちあがってどこかに歩いて去って行ったそうだ。
足はもう大丈夫そうだった。

女は幾つになっても女優というのはこの事か。


タイ人男性

昼休みにオフィスビルの入り口付近で、ビジネスマン風タイ人男性に声を掛けられる。

「大事な書類を家に忘れてきたのだが、タクシー代がない。ちょっとお金を貸してくれないか」

彼はかわいそうに思った。
仕事に影響が出たら大変。
さぞ困っている事だろう。

さらにこのタイ人、次のような提案もしてきた。

「自分の身分証を預けるから、貸してもらえないか」

身分証とは、タイ国民全員が持っていてあらゆる手続きの際に必ず必要になるもので、マイナンバーカード、いやそれよりももっと重要なものである。

きちんとした身なりをしている。
なおかつ身分証まで預けると言っている。
高い教育も受けていそうな雰囲気だ。
この方は信頼できるちゃんとした方だ。
彼の頭の中でこのように処理された。

「身分証は大丈夫です。私のオフィスは〇〇階の○○という会社です。夕方5時までいるのでそれまでに返してくれればいいですよ」

そう言って彼は500バーツを手渡した。
タイでは、タクシーは安いので街中ならそこそこ走っても100バーツ以内ですむ。
仮に往復分だとしても渡しすぎだと思うのだが500バーツを渡したのだ。
しかも、自分の勤め先はさらしたのに、相手の情報は彼の脳内にある顔の記憶だけ。
名前も会社名も手掛かりになる情報は一つもない。

夕方まで待ってみる。
誰も来ない。
少し残業もしてみる。
誰も来ない。
翌日もちょっと期待してみる。
誰も来ない。

そう騙されたのである。
なぜ相手から担保となるものを取らなかったのか。
私には理解できないが、それが彼のやさしさ、人を信頼する心なのだ。

基本的に本当に純粋で優しいので友人としては良い友なのだが、理解不能な行動をとるのが心配である。
私に散々言われたので、恐らくこれ以降にも騙されているのではないかと思うがぱったりとこの手の情報はなくなってしまった。


まとめ
まじめな事を言うと、
お金を貸すときは担保を取ろうね。
担保を取るのは申し訳ないと思う必要はないよ。

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