騙し、騙され -その2 電話勧誘編-
前回までのあらすじ
謎の政治団体「黒百合会」のパーティー会場に招かれた黒岩博士。会場に漂う怪しい甘い香りの中、意識が遠のき…。幾重にも張り巡らされたトリックを回避し、いよいよ真の危険に近づいていく。
-20歳編-
20歳前後になると自分の意志で買い物ができる、つまり未成年だと後から簡単にキャンセルができるのだが、成人だとそれができないという権利を逆手にとったタイプの詐欺電話がよくかかってくる。
今でいうクーリングオフという制度があったのかなかったのか分からないが、そういう知識もないような人間に仕掛けてくる詐欺だ。
どこから仕入れたのか、名指しで自宅に電話がかかってくる。
「〇〇高校の◇◇君から電話よ」
高校を卒業して数年。
仲の良い友達とは当時でも一緒につるんでいたし、同窓会とかするような雰囲気のクラスじゃなかったし。
そもそも◇◇なんて知らないけど一応出てみる。
「△△君?」
サークルの勧誘のごとく、やたらフレンドリーだ。
「●●のイベント事務局の◇◇って言うんだけど、今~~という活動をしていて、あなたにもぜひなんちゃらかんちゃら」
話が長くなってくると人の話をあまり聞かない性質である。
「△△君、映画は好き?」
古典的なお見合いか。
そして、陰キャ寄りの人間なので、こういうフレンドリーなノリが一番嫌いだ。
多分リアルだったら、肩を組みながら話してくる感じの声だ。
この時点で、確実に拒絶反応、ならびに騙しに来てるなとセンサーが働く。
でも、怖いもの見たさ、かつどんな手法なのか自分で経験しておきたいという気持ちが先に立った。
「好きですよ」
「映画館に見に行ったりする?」
「たまに行きます」
「今なら、映画館で映画を見放題になるパスを発行して~ぺらぺ~ら」
先ほどお伝えした通り、私は興味のない話が長くなると秒で思いがさまようので聞いていないのである。
ただ、なんとなく記憶の断片を辿ってみると、要は数万円のパス(高くはないけど安くもない値段)を購入すると、1年間映画館で映画が見放題になるという。
しかも、旅行にも安く行けたりなんだり~とにかく盛りだくさんなのだそうだ。
ここで告白しておくと、映画はそれほど見ない。
しかも、当時はお外にいる方が好きだったので、映画館はそんなに好きではない。
月に一本ほど、本当に見たいと思った映画をレンタルして部屋でゴロゴロしながら見るだけで満足だ。
でも一応食いついてみる。
「どこの映画館でもですか?」
「特定の映画館ですね~。でも有名な映画たくさん見られますよ~」
「特定の映画館ってどこですか?」
「渋谷にある映画館とかですね」
エリアのみで、特定の劇場の名前は出てこない。
「他はどこにありますか?」
「他にもありますよ。購入したら教えられるんですけど」
怪しさマックスになってきたのだが、もうこの時点で私の興味は、この短い説明ですら途中で思いがさまようほどに限りなく0に近かった。
「大丈夫です」
「は?大丈夫ですって何がですか?」
「大丈夫です」
大丈夫は大丈夫なのだよ。
いいかい、時間にして5秒もないあなたの話を聞くことにすら飽きているのだ。
「映画見放題なんですよ!?」
「大丈夫です」
「いや、だからこれはお得なパスで~~」
「大丈夫です」
ひたすら「大丈夫」を繰り返す。
この日本語って難しいですよね。
この場合だと、「いりません」という意味だけど、
買いませんか?→大丈夫=OK!購入できる
という意味にも取れるし。
ちなみに、タイ語で「大丈夫」は「マイペンライ」という。
タイ人も「マイペンライ」を乱用する。
具合悪そうな人に声をかける「マイペンライ」
説明したけどもう一人で業務出来る?「マイペンライ」
タクシーで、道違くない?「マイペンライ」
大抵「マイペンライ」ではない。
そんなことはどうでもいい。
とにかく、この時の私の「大丈夫です」は「いりません」という意味。
書きながらも話が脱線するくらいこいつの話長ぇーな。
「大丈夫です」
早く切ってくれないかなぁとぼんやり思っていたら…
「何が大丈夫なんですか!!!」
え!?キレられた。
親父にもキレられたことないのにぃ、とガンダムチックなセリフを言おうかと思いつつもそれも面倒だった。
-沈黙-
「聞こえてますか?」
-沈黙-
興味もゼロなので、言葉を発するのも面倒くさいのである。
面倒くさいの極み乙女である。
保留にした。
しかも相手の声はスピーカーから聞こえるように。
「もしもし?もしもーし!」
数分後、彼はあきらめて電話を切った。
またかけてくると面倒くさいな。
念には念を入れて、電話線を引っこ抜き、電話がかかってこないようにした。
30分ほどして電話線を戻したが、その後彼からの電話がかかって来ることはなかった。
後で聞いたのだが、この映画見放題パス、区民館の集会場のようなところで適当な映画のビデオを流すだけのものだったらしい。
映画は自宅でだらしない恰好で見るのが一番('ω')ノ
結論
注意力散漫
不注意力五十三万
これも時には武器になるよ
話を聞きすぎると思いが引っ張られるから
でも、大事な人の話はちゃんと聞こうね
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