究極の死にゲー×美少女、に見せかけた青春ホラー漫画「残機×99」


ホラーと呼ばれるものを見なかった理由

怖いものジャンルが意外と苦手である。
怖い、と言ってもざっくり分類して、以下のようになると思う。
①殺人鬼が出てきて人を惨殺しまくる ②人外のモノが人を襲う ③延々と殺戮やら拷問やら、果ては人体損壊の場面が展開される。
以上は、見た目にわかりやすいものだ。視覚的な怖さがしめる部分も大きい。
これに加えて、「えっ?!そんな理由/背景が?!」となると、怖さはマシマシになると思う。人間、案外何かをジャッジする時には社会通念の他に、自分の価値観やら経験「知」を基準にするので、それから大きく外れたものに恐怖する。
それから、この手合いの好きな職場の若い子が、「It~それが見えたら終わり」を「アレってコメディですよね?」と言っていたのを聞いてから、見方が変わった。
何を怖いと思うかで、ホラーの見方は変わる。

そこで、今回のお題はコチラ。

愛南ぜろ「残機×99」


「残機×99 」 あらすじ

大学生のあきらは、高給のアルバイト広告を見て応募し、面接会場に向かったはずが、気づくと知らない場所に監禁されていた。そこには、1から99までの番号がつけられた体操服の女の子たちと、古いゲーム機。壁には謎のカウンター。
ゲームが起動すると、番号順に女の子たちがゲーム世界に転送される。アイテムもスキルもない彼女たちは、現れたモンスターたちにあっさり殺されていく。
あきらたちは、ゲーム世界から脱出し、元の日常に戻ることは出来るのか?

と、まあこんな感じ。
①理由がわからず監禁される
②死んだら終わりのリアルデスゲーム
③主人公とサブヒロイン3名以外は名前も背景も
ほぼ省略でモブ
は、他の作品にもありそうではある。なんせ、作中で、「こういうのが好きな奴らってリョナって言うんだろ!!」とモブに言わしてるし。体操服にハーフパンツでなくブルマ、な辺りからして狙ってんのかよ!!と言えなくもない。

ひたすら惨殺。完走出来るかは、難しいところ。

いきなりネタバレですまないが、2巻くらいまではひたすら惨殺・惨殺・惨殺。お好きな方向けなお色気場面は、快楽モンスター(仮)というか……快感の中で死んじゃう場面くらいか。
ひたすら惨殺される女子たちと、先に転送される女子に毒を吐きまくるサブヒロイン・かえでを「うぜえなこいつ」と思うか、ひたすら皆を落ち着かせようと奮闘するあきら、そして近未来が予知出来るプレコグニション少女・キッカ。図太く寝ていたが、起きたらこのデスゲームを昔やっていたという眼鏡っ娘ゲーマー・よし子を温く見守るのがちょっと辛い。特に2巻。
絵柄もかわいらしい系なので、ホラーというには若干向いてない気もするが、いきなり魔女にマミさんがマミられる「魔法少女まどかマギカ」的怖さ・残酷さ、があるとも言えなくない。
むしろ見方を変えれば、集められた100人のうち、96人はこの4人の群像劇の為に揃えられた舞台装置みたいなもんかもしれない。

あきら、かえで、キッカ、よし子の「秘密」

自分に告白してきた相手に、「付き合いたければ、ここから飛び降りて」と言い、飛び降りた相手を笑いものにするかえでと、その場に居合わせたあきら。
男性はもちろん、人間そのものを嫌悪しているようなかえでをひたすら諌めるあきら。お互いの「秘密」が暴露された時、かえではあきらの存在を全否定する言葉で罵る。あきらは、「わたしという人間を理解してほしい」と言って転送され、あっさり死んでしまう。
ネタバレを回避しつついうと、あきらとかえでの「秘密」は、周囲に容易に受け入れられるものでは無い。かえでからすれば、自分を人間不信にして、家庭崩壊まで起こした存在と共通点があるから。
あきらはあきらで、自分が幼い頃から抱えてきた「違和感」を親に否定され、教師と同級生から笑いものにされた。非日常な状況であっても距離を縮めることすら出来ない2人は、あきらの「死」によって
絆が深まる。
かえでのある選択で、あきらは生き返る。この辺り私は好きなんだが、一度転送されたら死んでも戻れないという設定はどこいった?!になるので、かえでが戻れた理由にモヤッとする。しかし終盤の伏線と思えばまあ許せた。
キッカ。プレコグニション少女なので、転送されていく「残機」の行く末が見えてしまうので、どこか醒めた目でゲームを見ていたが、徐々に変わっていく……と言いたいけど、3巻まで読むと、「えっ!そりゃまあ分かるけど!そっち?!」な理由からかあきらとかえでを助ける点が……まあ、生きて帰ったとして、そんな未来は嫌だはわかるけどね。
よし子。一度ゲームをやったことがある、というので、途中までは有能お助けキャラなのだが、ところどころ行動が不審。ゲーム内のサポートキャラ・ジュジュ登場の場面でスクリーン見て顔を赤らめてみたり、あきらとかえでを「リア充百合」と蔑むあたりに実はフラグがあった訳で。
いや、でもね。今はヲタ活がエイジレス・ジェンダーフリー、有効期限無期限だから、よし子ほど拗らせなくても大丈夫じゃないかなって思うけどさ。居場所のなさを拗らせて、誰とも関われなかった果てがこれか、と思うとちょっと切ないです。


番外編:ゲームにも「見せられないよ!」はあったらしい。

性的な描写が社会通念上よろしくない!とされると、アニメで謎の光が入ったり黒く塗りつぶされるのがある。ジョジョの奇妙な冒険2部で、承太郎がタバコをふかす場面、鼻から下が不自然に塗りつぶされていた。
実はこのゲームの中にもそれがあって、この作中で「笑ってはいけない死にゲー24時」になってしまっている。まあよく考えたら、それ要らんし、ではあるけど。

感想:ホラーに見せかけた、「お互いのバカの壁を乗り越えようとする話」または「マリアナ海溝より深くて暗い理解不能の溝」がテーマの歪な青春モノ。

いきなり監禁されて、ゲーム世界に転送されて殺される怖さ、というよりメインキャラの「他者理解を徹底して拒んだ女たちがそれぞれ最適解を手にする話」と読む方がしっくり来る。
そこには「死んでいった人たちの人生を背負って行く」というセリフにあったような重々しさはなくて、もう少し軽い日常かある。
個人的には、かえでの最後の一言が引っかかって、後味の悪さを感じたが。

オススメ度:★★★☆☆

絵がダメ、ホラー自体がダメと言う方以外はよろしければ。

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