「この世界には有機人形がいる」感想


先に宣言しておきますと、今回のnoteで取り上げる作品は、読む人を選ぶので、苦手だなと思ったらブラウザバックよろしく。

「この世界には有機人形がいる」

紙の本は現在入手困難なようで、コミックアプリか太田出版のサイトからダウンロードが良い模様。
古のヲタクなもので、今でも時々二次創作したりしてるんだが、あるフォロワーさんに「仮面ライダーゼロワン」の二次創作の原案をいただく中で、ニチアサということもあるが、作中に登場するAl搭載人型ロボット=ヒューマギアが人間に対して悪意を抱くほど酷い扱いされていたような描写がない、むしろ「デトロイト ビカムヒューマン」の世界みたいに露骨な差別描写あっても良くないか、って話になった。

人間に変わってあらゆり「仕事」を代行する一方、人権はないので、破壊たり盗難される、自我が芽生えるとリセットされる、くらいで、言うほど差別もされてない。ニチアサじゃなければもっとえげつない描写が出来たはず、なんて話の中でこの作品の話が出た。
これまた紙の本が入手困難な「バージェスの乙女たち-ワイワクシアの章-」「バージェスの乙女たち-アノマロカリスの章-」で、「この世界には~」は同じ時系列にある。
「有機人形」は、人間より染色体が2本足りない人工生命体で、戦争において活用される戦闘用有機人形や、政治家・上級将校・財界人に飼われる性欲処理用の有機人形がいる。

ここまで読んで、「なんだ、ただのエロ漫画やんけ」と思ったアナタ。「バージェスの乙女たち」に登場するワイワクシアの言葉をどうぞ。

「ただのエロ漫画だと思ってると、脳天撃ち抜かれるよ!」

美しい少年のような容姿と、日常生活やベッドの中で献身的に振る舞う有機人形の話を読むと、こういうノリかあ、なんて思ってたら、2話めの「アルバイト」で、文字通り脳天撃ち抜かれる。
アルバイト軍人の慰安用に作られた有機人形の異形っぷりをおぞましい、人間の欲望は醜いと感じる読み手は、自分の価値観が根底から揺さぶられる。
有機人形が存在する世界は、これこそがスタンダード、王道中の王道なのだ。
「アタマおかしい!!!」と絶叫したくなるのは、「ドールフォンを吹く蛇」「ブラッディ・シャンパン」。有機人形を自分の欲望のままに改造したい、はまあいいとして。楽器に改造してオーケストラとか、ボクシングとか、これはR-18漫画のふりをしたギャグですか?!となるところをギリギリで踏みとどまってる。
「ドールフォン~」については、結末も驚いたけど、仮に主人公と素晴らしい「演奏」をしていた有機人形が現れたとして、その先が想像出来ない。
「ブラッディ~」は……まあ息抜き的にあってもいいかな、くらいで。
「禁断のアンモフィラ」は、「この世の快楽は味わい尽くした」という男が訪れた娼館で、アンモフィラという究極の有機人形と出会う話。
男が今までに寝た有機人形のことを回想する場面もかなりえげつないですが、アンモフィラの姿を見て欲情できる精神か理解不能。

これだし。

ネタバレは回避しますが、「危険を感じたら撃ち殺してください」と娼館の執事が言うほど最上級の危険物なアンモフィラ、ボールギャグと拘束具をといたら、これが大変。儚くも可憐な幼女の顔をしております。
ペドフィリア的な意味で危険、ではない。そんな概念すらないこの世界において、幼女のような可憐さを持つ有機人形が危険なのではなく、その「特性」にあるのです。それについては、読んで、お確かめください。

「道具」「歴史は夜捏造される」

いわゆる「レイシスト」の主人に買われた有機人形「あきつ」のお話と、有機人形開発初期の話。
 有機人形三原則、というのがテーマになってて、主人に無抵抗なまま殴られても、従順な「あきつ」を見ていて正直しんどいのですが、この話、意外な結末を迎えます。これならまだアンモフィラの話のがましかな。
「歴史は~」は、某国による拉致事件と重なる描写があるのも胸糞なんですが、「アルバイト」で軍人アルバイトしていた彼が考えたことの伏線回収になっております。

最後に。
ちょっと切ない余韻が残る「カナリアの歌う街」。手塩にかけて育てた有機人形の歌姫のお話。作者さんが後書きで語っておられますが、高級な有機人形ほど主人に従順である、という設定が強く出ており、ドールフォンに改造された有機人形同様、それを奪おうとする人間との争いも起きまして……
結果から言うと、奪われるくらいなら壊してしまえ、と考えた主人の手で破壊されます。
しかし人間はエゴの生き物なので、有機人形改造の「天才」に彼女の再生を依頼します。
この作品世界の天才=どうかしてる人、なので歌姫人形が以前の姿で復活する訳がない。これを踏まえてこの結末をどう読むか、でこれまた評価が別れます。

まとめますと、「背徳感がいつの間にか疑問に変わり、おかしいのは自分なのでは?という倒錯の迷宮に落とされる話」でした。万人受けはしませんが、興味のある方は是非。

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