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侵略者たちよ来ないでくれ

 頼みもしないのに勝手にはいってきて、しかもやりたい放題の悪行を重ねる困った輩。日本の近くで起きている物騒な国家間のできごとをすぐに思い浮かべてしまうが、そんな目立つものではない出来事もある。動植物の世界のことだ。
 私は以前、「居心地いいのですみつきました」という、外来動植物についての記事を書いた。今回はその続編と呼んでもいいと思う。

 今月、新聞数紙に「侵略的外来種」についての記事が載っていた。
 最初は9月5日付の産経新聞で、外来種がもたらす損失についての内容だった。金額にして世界中で年間(日本円換算で)約61兆8,000億円にのぼるというものだ。農作物や漁業資源などを食い荒らしているということだが、ほかにも物的被害や対策費なども含まれているのだろう。
 侵略的外来種は、日本の在来動物を捕食したり植物を枯死させたりするだけでなく、マラリアやデング熱などの感染症をもたらしたりする。

 これまでに知られている外来種のうち37パーセントは1970年以降に報告されたもので、いまでも年間200種の新しい外来種が確認されているというから脅威だ。
 これまでに37,000種以上の外来種が、本来の棲息域ではないところに居ついてしまった。不幸なことに、そのうち3,500種以上が侵略的外来種だという。そして、これまでに絶滅した動植物の60パーセントに、侵略的外来種がなんらかの形で関与していたという。
 この研究結果をまとめたのは「生物多様性および生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)」という専門家グループで、国連の関与で設立された科学者組織だ。

 まったく、厄介なものだなどと思っていたら、やはり産経新聞(令和5年9月13日)に「岡山の港に有毒『コカミアリ』」という記事が出ていた。
 これは特定外来生物に分類されるコカミアリというやつで、倉敷市の水島港で約980匹見つかったという。フィリピンから来たコンテナにくっついていたらしい。この水島港では7月にも30匹ほど見つかっていたそうだ。
 同様のパターンで神戸港でも50匹ほど見つかったというが、コンテナがフィリピンから神戸港を経由してきたというから、コカミアリもちゃっかり無賃乗船で船旅をしてきたのだ。

 コカミアリは中南米原産のアリで、刺されると激しい痛みがあるという。体長は1ミリから2ミリ程度と小さいため発見はむずかしい。しかも繁殖力が旺盛なため根絶をむずかしくしている。
 やはりアリの一種で悪名高いものにヒアリがいる。針に毒を持っているので刺されると体に害をもたらすし、なかには死亡した人もいるという。
 家畜に被害がおよぶこともあり、乳牛なら乳の出が悪くなったり、鶏なら卵の生産量が落ちたりするらしい。

 外来種がはいってくるのを予防するのは非常に困難だ。輸出する国、つまりコンテナを送り出す国には駆除の責任はない。結局、輸入した側で発見に力を注ぐしかないが、はいってくるコンテナの数は膨大で、しかも隠れている昆虫は体長数ミリという大きさなのだ。
 前述のコカミアリは岡山県の定期調査で運良く発見されたが、逆に言えば、各地の港でこれまでにもよく発見できたものだと感心するくらいだ。

 ところで、水島港で発見されたコカミアリのなかには女王アリが7匹いたという。記事の書きついでに、アリの繁殖力について調べてみた。
 コカミアリの女王アリは1日に約1,000個の卵を産む。寿命は女王アリが5年、働きアリが1年。
 ヒアリはコカミアリより旺盛で、女王アリが1日に約1,600個の卵を産み、女王アリが7年、働きアリが1年生きるという。
 実際にはこういう計算通りにはいかないと思うが、それにしても脅威だ。何かいい防御策はないものか。


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