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エサはあるけど、野生動物に人里は鬼門

 野生のクマやタヌキ、シカ、サル、イノシシなどが出稼ぎ、つまり、食い物を得る目的で人里に下りてくることが多くなっている。
 私の菜園では自家消費用の野菜を栽培しているが、トウモロコシなどはタヌキの好物のため、被害に遭うこともある。タヌキが食っているところを直接見たことはないが、友人の話によると、食い方などの痕跡からタヌキのしわざだと言われた。

 山の動物たちの出稼ぎ先は、かつては農山村がほとんどだった。ところが、近年では市街地にまで範囲を広げている。身の危険もたくさんあるが、食い物もたくさんあるからだ。
 出稼ぎは山の食糧不足が理由と言われるが、単なる不足だけではないだろう。人間社会のほうが、山よりも食い物の種類が豊富で量も多く、しかも旨いからではないか。そのうえ、野菜や果物などは冬以外ならいつでもある。
 そういう、まことにけっこうな魅力があるからこそ、危険を冒してまでも市街地へ侵出しているのだ。

 そして、一度味をしめれば何度も犯行を繰り返し、内容もエスカレートしていく。サルが民家に侵入して冷蔵庫の中を物色したり、人間を襲って食品を奪ったりすることだってある。
 だからといって勝手に駆除するわけにはいかない。法律もあるし、動物愛護の精神もある。そもそも敵は逃げ足が速いし、なかには凶暴なものもいるからうかつに手を出すことはためらわれる。

 法律や愛護の精神はさておき、とにかくけしからんやつらだ、と、動物たちを一方的に非難しがちだが、人間の側にも非はある。
 人間は山林を切り開いて土地を開発し続けている。だから、動物が人里に近づいているのではなく、人里が動物の生息圏に近づいているとも言える。動物の側からすればまさしく侵略であり、食糧不足を招くばかりか、生活基盤そのものが脅かされることになる。

 巨大なレジャー施設などの出現で山を追われても、環境適応能力が高い動物は人里近くへ引っ越して棲みついたりもする。そして、たちまち食糧調達の術を身につける。
 ところが、敏捷なうえに知恵が働くサルなどは別として、タヌキやシカなどはやはり輪禍に遭う。生息圏の真ん中を高速道路が貫通しても、動物たちは以前と同じ生活をしようとし、道路を横断して輪禍に遭うのだ。

 そういう事例が後を絶たないことから、保護対策に乗りだした自治体もある。動物を輪禍から守るために一般道の下に専用のトンネルを掘ったり、通路や跨道橋を設けたりしたところもある。
 動物も人間も大変だが、どっちが大変かといえば動物かもしれない。

 ところで、イヌやネコなどのペットも、栄養過多のところに運動不足が重なり、人間の生活習慣病のような状態になるものが増えているらしい。
 同様のことが、人間社会に接近しすぎた動物、特に、食糧調達力に優れたサルなどには言えるようだ。詳しいことは覚えていないが、都市部のカラスにはそういう異変が起きているものが見受けられるという話を、ずいぶん前に聞いたことがある。
 なにしろ、都会のカラスが漁っている残飯は、人間の飽食の象徴のひとつであり、野山の〝自然食品〟よりも高栄養で高カロリー、おまけに塩分や脂肪分もたっぷり含んでいるのだ。

 なんとか輪禍や猟銃の危険から逃れ、やっとつかんだ食うに困らない暮らし。しかし、その先に待っていたのは生活習慣病だった。栄養過多のカラスや肥満のサルなどは洒落にもならない。
 やっぱり、人間界に近づくとろくなことがないようだ。

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