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海の中でスッキリ

 いやあ、暑いあつい。夏らしくていいという捉えかたもあるが、物事には程度というものがある。
 真夏だから、炎暑、猛暑、酷暑などの言葉が飛び交っても当然と言えば当然だが、暑さが苦手な人にとっては灼熱地獄だろうし。海や海水浴が好きな人にとっては天国であろう。

 私は海は嫌いではないが特に好きということもない。それでも以前はよく遊びに行ったし海水浴も楽しんだ。
 ただし、名目は海水浴でも真の目的は民宿の夕食にあった。海の幸を肴にしての酒宴である。つまり、花より団子であった。

 その海水浴も、もう何年も行っていない。海の幸には未練があるが、泳ぎが苦手だから海そのものには未練も残念もない。
 そもそも背泳ぎと平泳ぎしかできない。クロールは、一応それらしいかっこうはできるが息継ぎができない。顔を水面に出すことはできても、息と一緒に海水を吸い込みそうな気がして息を吸えない。だから、かっこうだけは一人前というだけ。

 ところで、ずいぶん前のことだが、海水浴客を対象にした、「海の中で用足しをしたことがあるか」という調査の結果を、雑誌かなにかで読んだことがある。残念ながら出所も数字も覚えていないが、「したことがある」人の割合が、男女を問わずかなり高かった。
 紳士淑女のようなすました顔をしていても、しらばっくれてけっこうやっているのだ。蛇足ながら、用足しというのは〝小〟のほうだ。かなり大胆な人物でも〝大〟をするやつはいないだろう、とは思うが、広い世間にはいろいろな人がいるから、絶対いないとは断言できないけど。

 海の中での用足しは泳ぎながらでは困難だ。いや、慣れればできるかもしれない。バタフライやクロールなんかじゃ無理だろうけど。
 とりあえず泳ぎながらでは無理という前提にしよう。したがって、用を足す場合にはただ静かに浮いていたり、ゆっくり歩いたり、じっとしていたりすることになる。

 不自然に立ち止まってうつろな表情をしている人などはかなりあやしい。そういう人が近くにいたらすみやかに遠ざかるほうがいい。
 あるいはその逆に近づいて行って、「気分はいかがですか」とか、「ご一緒しましょうか」とか、「まだ出ますか」などと話しかけてみるのもいいかもしれない。

 海に棲息する膨大な数の生物は、一年中おびただしい量の〝大小〟を排泄している。たとえばクジラ一頭の排泄量だって、人間の何百人分か何千人分か知らないが膨大な量だろう。そのほか、海洋生物全体といったら想像を絶する量になる。
 それに比べれば、夏場の一時期に、海のごく一部で、海水浴客の一部がする用足しなどはものの数ではない。
 しかも、排泄物は生理的な物質であり、化学物質などとは違って毒性など皆無に等しい。そのうえ浄化も早い。

 少し横道にそれるが、陸上同様、海の汚れもしばしば取沙汰される。海や川の、有機物による汚染の原因は7割が家庭からの排水だそうだ。
 で、海水に溶けた窒素やリンは海の栄養を豊かにし、赤潮や青潮を発生させる。これらは排泄物よりも質が悪い。
 また、農薬や化学物質は魚介類の体内に蓄積され、律儀に人間のもとへ帰ってくる。

 話は戻る。海の中での用足しは実質的には無害だと思うが、要は、害の有無よりモラルやマナーだ。正直なところ、浜辺の仮設トイレへ足を運ぶのが面倒という気持ちはよくわかる。まことによくわかる。でも、よいこはまねをしてはいけません。

 ところで、海の中でスッキリしたことがある人って、どのくらいの率でいるのだろうか。浜辺に設置された仮設トイレを利用する人は、海水浴客全体からみると少ないようにも思えるのだが。

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