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「ぴったし」は「ぴったり」するか

 「ぴったり」という言葉は誰でも知っているが、それの擬態語のような「ぴったし」という言葉を知ったのは、昔放送されていた「ぴったしカンカン」というテレビ番組によってであった。
 私はその番組を観たことは一度もなかったが、新聞のテレビ欄で番組名を目にするたびに、「はて、『ぴったし』とは新語か。それとも自分が知らないだけか」などと、長い間飽きもせず不思議に思っていた。

 「ぴったし」は、日本最大級の国語辞典である日本国語大辞典(第二版)にも載っていないし、中型辞典の大辞泉(1995年発行)や、広辞苑(ある理由で第五版しか購入していない)にも出ていない。
 さらにだんだん小さくなって、小型の新明解国語辞典(第八版)や岩波国語辞典(第八版)、旺文社国語辞典(第十一版)などにも出ていない。

 出ている辞典といえば(私が持っている中では)少数で、中型の大辞林(第四版)に「『ぴったり』の転。俗語的な言い方」と出ていたほか、小型の三省堂国語辞典(第八版)に、「〔俗〕ぴったり」と、お情け程度に載っていただけだった。

 少数派だからといって存在が否定されるわけではないが、こんなに認知度が低いということは、私が「ぴったし」の身分に抱いた疑念がまったくの見当違いでもなかったことの証とも言える。
 この「り」と「し」の違い、どこでどうなって生じたのだろう。専門家ならすらすらと解説できるだろうけど、能天気な私には見当がつかない。

 ところで、友人N氏は「ばっちし」という言葉をよく遣う。「ばっちり」と同じ意味で用いているのだと思うが、「ぴったし」同様、前述のどの辞書にも出ていない。
 同様に「やっぱし」というのもある。これは日本国語大辞典には「やっぱりの変化した語」と出ていて、いくつかの辞典は「やっぱりの転」とか「やっぱりが訛った言葉」などというふうに説明している。

 さて、肝心の「ぴったし」だが、訛ったとか転訛したとかという論に当てはめてみれば、「ぴったりの変化した語」とか「ぴったりの転」とか、あるいは「ぴったりが訛った言葉」などとなるのだろうか。
 そして、「ぴったし」も「ばっちし」も、「やっぱし」同様、いずれ辞書に載るのだろうか。
 どうも「さっぱし」わからない。

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