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留学日記「消えたポテト」

それは、寝過ぎて時間に余裕がなさすぎた火曜の朝のこと。寮の近くの食堂は、一階がテイクアウト用、二階がイートイン用になっている。私はいつも部屋で次行く場所ややることの視覚的なイメージができないと行動に移せないタイプなので、今日は食堂の二階のボックス席で、白い陶器のカップでコーヒーを飲んで目を覚ましながら、ポテトとソーセージの朝食をかき込みつつ、教授と約束した映画の記事にパソコンで目を通そうと決めていた。

雨の中、食堂に着く。最近睡眠の質が良くないらしく、これでもかというくらいに二度寝をしたので、時間がなさすぎてテイクアウトをとって後で食べようと決めた。

テイクアウト用の列に並ぶ。ガラス越しに並ぶ朝食メニューを、スタッフの人が取り分けてくれる。自分の番になった。「全部ください。」卵がこんもり。こんなにいらないなぁとか思いながら、私が好きなポテトもたんまりつがれていくのを見る。ソーセージも、がっしり5本くらい入れてくれて、最後に甘いパイが乗った。私の前で、紙の箱が閉められる。「ありがとう、素敵な1日を過ごしてね」と、列を妨げないように早口で言ってから、ミールプラン用のカードをピッとかざしてから、席に向かった。

席は空いてなかったので、そこら辺にいた人に声をかけて相席させてもらう。やべえ、本当に時間ない。あと10分でバス停に向かう必要があり、急いでAirPodsをパソコンに繋いで、昨日作っておいたドキュメントの音声読み上げをした。片手間に、テイクアウトの箱を開ける。

スクランブルされた卵が箱を覆っている。あとパイ。卵をつついた後、ソーセージを一口。ちょっともしゃっとした食感が欲しくなって、お気に入りのポテトを探した。

ん?あれ、どこにもない。

どこを突っつき回しても、パイの中を開いてみても、ポテトのかけらもなかった。

あのお姉さんは、まるで勧められたお酒を飲むふりしてバレないように捨てるスパイのように、ポテトをつかんでどこか別のところに放ったのだろうか。もしくは、ポテトを入れた箱と、入れていない箱を知らない場所で入れ替えたのだろうか。それとも、ポテトが入れられる光景を目にしたのは、私の錯覚か、思い込みだったのだのか?

真相は、神のみぞ知る、神の味噌汁。いや〜摩訶不思議、ポテトの神隠し。


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