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サウスパークとアメリカ大統領選挙

 9月30日に放送されたアニメ『サウスパーク』の1時間スペシャル「The Pandemic Special」は、トランプ大統領にそっくりなギャリソン先生がコロナウイルス治療の最後の希望、センザンコウを研究者ごと火炎放射器で焼き殺して終わった。
 ギャリソン先生の「そろそろ選挙ですよ、外に出て投票に行きなさい」という発言は、郵便投票が増えると大統領選挙に不利に働くと考えていたトランプ陣営そのままだ。
 
 毎年、9月下旬から年末にかけて放送されるサウスパークでは、この時期のアメリカの恒例行事やイベントがストーリーに盛り込まれることが多い。ハロウィンや感謝祭、クリスマスと並んで4年毎の大統領選挙もサウスパークの重要な時事ネタのひとつだ。

 現状、「The Pandemic Special」放送からサウスパークの次のシリーズがいつ始まるのかアナウンスされない状況が続いている。公式ホームページでは「The Pandemic Special」をシリーズ24のエピソード1としているが、本当に新シリーズの開幕となるエピソードなのか1話だけの特別編なのかさえはっきりしていない。筆者を含め世界中にさびしい思いをしているファンがいるだろう。
 大統領選から1ヵ月が経過した今なお敗北宣言をしないトランプを巡って世界中が注目しているなか、サウスパークはこのまま2020年の大統領選エピソードをスルーしてしまうのだろうか。

 新シリーズ放送を待ち通しにしながら、過去20年間サウスパークがどのように大統領選を扱ってきたのか振り返ってみる。

2000年 ジョージ・W・ブッシュ対アル・ゴア

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 サウスパークがアメリカ大統領選を初めて描いたのは、2000年11月15日放送のシリーズ4・エピソード12「Trapper Keeper」(日本語題「カートマンズ・クリークの秘密」)だった。

 メインストーリーは、カートマン自慢の書類フォルダ“ドーソンズ・クリーク スーパーウルトラ書類フォルダ2000”(※)が近い将来ターミネーターのごとく邪悪な意思を持ち人類を脅かす存在になるのでその前に破壊しなければならない、というものだ。
※『ドーソンズ・クリーク』は放送当時アメリカで人気だったTVドラマ
タイトルのトラッパーキーパーは80〜90年代にアメリカの子供たちの間で流行ったルーズリーフや筆記具が収められる文具フォルダ。日本だと同じく80年代に流行った多機能筆箱がそれに近いかも

 大統領選をモチーフとしているのはこちらのストーリーではなく、サブストーリーの方。
 暴走を始めたドーソンズ・クリーク スーパーウルトラ書類フォルダ2000を主人公の4人が必死に食い止めている頃、カイルの弟・アイクは飛び級で幼稚園に入り、担任のギャリソン先生の推薦で学級委員の候補に選ばれる。
 アイクと対抗馬のフィルモアの学級委員選は園児たちの投票の結果6対6となり、勝敗は最後まで「どっちに入れたらいいかわかんな〜い」を繰り返していたフローラの1票に委ねられる。フローラはアイクに投票し勝敗が決したと思われたが、フィルモア側から再集計を要求される...。

 エピソードのあらすじはこんなところだが、実際の共和党候補ジョージ・W・ブッシュと民主党候補アル・ゴアで争われた2000年アメリカ大統領選挙はどのような経過を辿ったのだろうか。
 11月7日、投票当日の開票時点で獲得した選挙人はブッシュが246人に対してゴアが255人の大接戦となり、勝敗は25人の選挙人枠を持つフロリダ州の開票結果に委ねられた。
 翌8日にはフロリダ州でのブッシュ勝利(1784票差)が報じられ、ゴアはブッシュに当選祝いの電話をするも、得票差が再集計が求められる0.5%未満だったためゴアは当選祝いを取り消す電話を入れる。
 超僅差ながらもブッシュ優勢で再集計が進むと、ゴア陣営は民主党支持者が多い4つの群に対して集計ミスが発生する機械作業ではなく手作業による再集計を求める。ゴア票の追い上げを防ぐためブッシュ側は手作業の中止を求めて訴訟を起こす。ここから大統領選は手作業集計の是非を巡って法廷へとリングを移す。
 連邦裁判所が判決を下した翌日の12月13日、ゴアは敗北宣言を行う。投票日から36日が経過していた。

つまり、「Trapper Keeper」放送日の11月15日はおろか、シリーズ4の最終話が放送された12月20日にもまだ大統領選の結果は出ていなかったのだ。サウスパークで最後までどっちに投票しようか悩んでいたフローラはもちろんフロリダ州のメタファーだ。
 サウスパークの学級委員選の結果は子供たちの次の言葉で落ち着く。
フィルモア「もう、ぼく降りるよ。もうこの遊び飽きちゃった」
女の子「そうよ、なんかバカみたい」
アイク「うんち漏らしちゃったー」

 このエピソードでは園児の要求で票を106回数え直したり、“アメリカ版女みのもんた”のロージー・オドネルにしゃしゃり出られたりと散々振り回されたギャリソン先生だったが、この20年後には自分が大統領の再選を巡って国民を振り回すことになる。


2004年 ジョージ・W・ブッシュ対ジョン・ケリー

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 ジョージ・W・ブッシュがジョン・ケリーを下し再選を果たした2004年の大統領選挙から遡ること6日前、2004年10月27日にシリーズ8・エピソード8「Douche and Turd」(日本語題「小学校のマスコット論争」)は放送された。
 前回は幼稚園の学級委員選だったが、今回は主人公たちが通うサウスパーク小学校の新しいマスコットを決める選挙を通して、選挙に投票する意味と無意味さを描いてみせた。

 サウスパーク小学校ではチアガール「カウズ」と牛のマスコット「ムーイ」がフットボールチームの応援パフォーマンスを行っていた(※1)。そこへ過激な動物愛護団体「PETA」が「無神経に牛を扱っている」と乱入してくる(※2)。
※1 サウスパークのあるコロラド州では畜牛は主要産業のひとつ
※2 動物愛護団体「PETA」が生徒たちに赤い液体をバケツでぶっかけていた描写には元ネタがあり、2000年のファッションショーでPETAはランウェイに向かって赤いペンキを投げつけている

 PETAの攻撃を避けるべく、学校ではカウズに変わる新しいマスコットを決める選挙を行うことに。
 学校側が用意した新しいマスコット候補に納得がいかないカイルは新候補として「巨大浣腸」を提案する。するとカートマンが「もっと面白いのがある。糞サンドイッチだ!」と対抗する。巨大浣腸と糞サンドイッチはマスコット選挙の最終候補となり、両陣営は選挙キャンペーンを繰り広げる。

 カイルは親友のスタンにも巨大浣腸への投票を促すが、スタンは「どっちもバカげてる」と投票の棄権を宣言する。
 スタンが選挙で投票しないと聞いた両親は息子を問いつめる。「投票するのが意味がないだと?」「投票権を持つまで何人が犠牲になったと思ってるの」
 両親までもが巨大浣腸と糞サンドを巡って争うなか、家に「投票の重要性を理解していないだと?」とラッパーのパフ・ダディ(現・ショーン・コムズ)がブラザー数人を引き連れてやってくる。(※3)。
※3 パフ・ダディは2004年大統領選前、若年のマイノリティ層の投票率を上げるため“Vote or Die”キャンペーン活動を展開していた

 パフ・ダディに銃で脅されたスタンは渋々投票を行う。その姿にカイルは「下らないと思っているかもしれないけど、その1票は重要なんだよ」と一旦は歓迎するが、スタンが糞サンドに投票したのを見るや、「こっちに入れるんじゃないのかよ?友達だろ」と詰る。
 パフィ・ダディをけしかけるカイルにスタンは「俺の投票の意義じゃなくて、自分の得票目当てかよ」と呆れる。パフィ・ダディの選挙促進キャンペーンも結局はブッシュを再選させないためにやったんだろ、と皮肉った描写だ。

「俺は誰の支持も受けない。投票の強要なんてまっぴらだ。投票しない、これが答えだ」
 改めてそう宣言するスタンに、大人たちはサウスパークからの追放という処置を下す。
 スタンは住民一人ひとりに服を破られ、ツバをかけられた挙げ句、映画『マッドマックス サンダーロード』のマックスのように頭からバケツを被らせて馬に乗って町を追放される。
 さまよったスタンが辿り着いたのは、PETAが動物と共生するコミューンだった…。

 このエピソードでは「与えられた巨大浣腸と糞サンドを選ぶ権利を行使する大切さ」を悟ったスタンだったが、エピソード20では再び「なぜ4年ごとにクソガチャを回すのか意味がわからない」と冷めた名言を吐くことになる。


2008年 バラク・オバマ対ジョン・マケイン

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 2008年11月4日に行われたバラク・オバマ対ジョン・マケインによるアメリカ大統領選挙の結果「オバマ勝利」が報じられたのは同日午後10時頃。シリーズ12・エピソード12の「About Last Night…」はそれからほぼ24時間後の翌日10時にテレビ放送された。

 放送日が大統領選翌日ということに気づいてからプロットを考えたというこのエピソードは、オバマが4日夜に地元シカゴのグラントパークで行った勝利演説シーンを完全再現した冒頭シーンは突貫作業で作られたものとしても、それ以外のほとんどのシーンは本選挙前からオバマ勝利ありきで作業が進められたことになる。オバマが負けた場合のことを想像すると、製作陣にはかなりスリリングな大統領選だったろう。

 オバマの勝利が報じられるや、サウスパークではランディらオバマ支持者たちが路上に出て馬鹿騒ぎ。ズボンを脱ぎ、ビールサーバーを持ち込み、信号機に上り、パトカーを引っくり返し、ところかまわずゲロを吐き、上司をぶん殴りながら「オバマ!」「チェンジ!」と叫ぶ。全部ランディーの仕業だが。

 共和党支持者たちーーバターズの父親スティーブンやギャリソン先生、ビクトリア校長、マッケイさんら(学校の先生が多い)は「この国の終わりだ」「たぶん日の出まで死ぬ」と悲観し、町の外れにシェルター(箱舟)を掘って新政権による死の灰から逃れることに。
 ひとりカートマンは不在となった家々からテレビを盗んで売り歩いていた。

 その頃、オバマとマケインは合流し、作戦の第一段階の成功を祝い合う。
 彼らが10年前から計画した作戦とは、大統領選挙で全国民が浮かれている間に史上最大の強盗を企てるというもの。
 オバマとマケインをはじめとするチームの目的は、世界最高の防犯システムで守られたスミソニアン博物館から2億1千万ドルのホープダイヤモンドを盗み出すこと。二人はホワイトルーム執務室地下にある長さ3キロのトンネルを通りスミソニアン博物館に潜入するために大統領選に出馬したのだ。
 マケインの「ヒヤヒヤしたぜ。引き分けちまうんじゃないかと思ってよ」という台詞からも、どっちが大統領選に勝利してもよかったのだろう。
 チームにはマケイン陣営の副大統領候補サラ・ペイリンやミシェル・オバマ、大統領選前日に亡くなったオバマの祖母も合流し、『オーシャンズ11』のパロディーが展開される。

 一方、カイルはマケインの敗北に悲観し、窓から飛び降りて足を怪我した弟を病院に連れて行くことに。病院は急性アル中(→オバマ支持者)と自殺未遂によるケガ人(→マケイン支持者)でいっぱいだった。

 そして一夜明け。
 ダイヤを盗み出したオバマ一行は高飛びするため空港へ。飛行機が出る直前、オバマは仲間たちに「俺は強盗を引退する。大統領をやってみるよ」と告げ、ミシェルと共に再びホワイトハウスへ向かう。
 
 スティーブンらシェルターに避難した共和党支持者たちはその世界がまだあることに驚く。「つまり、過剰反応しすぎた?」「たぶん、4年間オバマでも大丈夫だろう…」

 ひどい二日酔いで目覚めたランディに息子スタンが伝える。「会社、クビだって」。
ランディ「ちくしょう、なにが“チェンジ”だよ!あの野郎、だましやがって!マケインにしとくんだった!」


2012年 バラク・オバマ対ミット・ロムニー

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 前回同様、大統領選挙の翌日2012年11月7日に放送された「Obama Wins!」(シリーズ16・エピソード14)。長引く景気低迷から前回に比べて苦戦が予想されたオバマの対ミット・ロムニー戦だったが、サウスパーク製作陣がオバマ勝利という読みに自信を持っていたことが窺えるストーリー構成になっている。

 今回のストーリーはほぼメインプロット1本で進む。オバマ再選の裏にはカートマンの暗躍、その裏には大統領選の争点となった対中政策があったという展開だ。

 カートマンは選挙の激戦州であるコロラド、ノースカロライナ、フロリダ、オハイオ、ネバダの年寄りしかしない投票所のスタッフを欺き、何十万という票を盗み出していた。
 カートマンを雇っていたのは中国、その中国と取引していたのは、オバマだった。

 オバマは再選と交換条件に中国にある物を差し出すことを約束していた。カートマンを手助けしていたバターズはカイルやスタンに問いつめられ、白状する。
「今週いちばんのニュースは大統領選挙じゃない」

 中国がオバマに要求していたものとは、大統領選挙投票日の一週間前にディズニーへの売却が報道された「スター・ウォーズ」を含むルーカス・フィルムの権利だった。
 この辺はモーガン・フリーマンが分かりやすく説明してくれる。
 そしてカートマンは中国に対して盗んだ票の在処を教える代わりに「スター・ウォーズの新シリーズには自分をルークの息子役として出演させること」を条件に出す。

 盗まれた票を探し出すカイルたちの目の前に現れたのはミッキーマウス卿。「中国との取引って何のことだ?スター・ウォーズはもう全部オレのもんだぞ、ハハ」
 中国にルーカス・フィルムを横取りされたくないミッキー卿もまた対中政策で強硬論を見せるロムニーを大統領に据えるため盗まれた票を探していた。

 カートマンは中国を裏切ってミッキーと手を結ぶ。彼が票を隠していたのは、2009年に経営破綻し、中国との売却話も破談となり、今やアメリカ国民からも見向きもされなくなったGM社のハマー販売店だった。

 カイルたちや中国人に票の隠し場所を発見されたカートマンは警察を引き連れてやってくる。
「やっぱ民主主義のためにはこの票を公表しなければいけないよな」
 それを必死に止める中国人。「やめろ、私たちは偉大なシリーズを守ろうとしているんだ」
 何がなんだか分からないカイルたち。
 そこへモーガン・フリーマンが再び登場。
「中国人が必死になってスターウォーズをほしがっている理由は、ディズニーはこのシリーズの置き場所に相応しくないと心配したからだ」
「我々は岐路に立っている。もしこの票を公表したら、大統領には国民が投票した者がなる。だが、その者はスターウォーズを中国から遠ざけ、ディズニーが保有することを認めるだろう。正しい者が大統領になるか、それともスターウォーズとそれを守る者(=中国)を共にさせるか」
 モーガン・フリーマンの説明を聞いたスタンはカートマンが盗んだ票を燃やし、再びアメリカは大統領にオバマを選ぶ。

 大統領のイスを条件にルーカス・フィルムのディズニーへの売却を防いだサウスパークだったが、現実世界ではこの3年後にディズニー資本で新作『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(エピソード7)が公開。今やカートマンが盗み出した票同様、ファンからはなかったことにしたい続3部作が幕を開けることになる。

 やはり、ルーカス・フィルムはディズニーに売却するべきではなかったのだ。
 ところが、2019年に放送されたシーズン23・エピソード2「Band in China」で中国市場向けを狙って自国のエンターテイメント業界が自己検閲してることを皮肉り、中国ではサウスパークが閲覧中止に。
 今年公開された映画『ムーラン』を巡っても中国にディズニーは忖度しまくりだし、次回の2016年トランプ対ヒラリー・クリントン戦になるともはや現実にフィクションが追いつかない事態となる。


2016年 ドナルド・トランプ対ヒラリー・クリントン

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 前回、前々回同様、大統領選挙の翌日の2016年11月9日に放送されたシリーズ20・エピソード7「Oh,Jeez」は、タイトルがそのまま製作陣の気持ちだったろう。日本語にすると「マジかよ…」だろうか。

 もともとこのエピソードには「The Very First Gentleman」という大統領選でヒラリー・クリントンが勝つことを前提にしたタイトルがつけられていた。トランプ勝利によってエピソードの大幅変更を余儀なくされた製作現場の混乱ぶりはそのままエピソードの出来に現れている。

 放送されたエピソードにはファースト・ジェントルになる予定だったビル・クリントンが登場するシーンも残されており、その箇所が余計にストーリーを混乱を招くことになった。

 サウスパークファンの間でもこのシーズン20の評判は悪い。
 大きな理由としては、従来の一話完結ではなくシーズンを通しての連続モノにしてしまった、トランプネタに固執しすぎた、というのが挙げられる。トレイ・パーカー、マット・ストーンら製作陣もそのことについては認めており、シーズン終了後に次のように語っている。

「『サタデー・ナイト・ライブ』と同じ罠にはまってしまった。まるで『我々がトランプをどう斬るか、お楽しみに』と煽るCNNみたいになっていた。僕もマットもそういうのが嫌いだったのに」
https://forbesjapan.com/articles/detail/16894

 この発言からもわかるように、トレイ・パーカーもマット・ストーンもサウスパークの作り手という立場においてはリベラルでも保守でもない。ポリコレをはじめ過剰に権利を主張するリベラルも、変化に対して必要以上に神経質で臆病な保守も並列にコキ下ろしている。

 シーズンを通したストーリーにするためにプロットを複雑化してしまったことも破綻の理由のひとつだろう。
“メンバーベリー(懐古趣味)”と“ネット荒らし”という2つの大きなサブプロットは、どちらも本流の大統領選に中途半端に絡んだままでシーズンを終えてしまった。
 シーズン終盤は製作者自身が着地点を決めかねている印象も受け、大統領選挙の勝敗を反映させたエピソード7を書き換えることによってその破綻は決定的となった。

 小学校教師、ギャリソン先生が政治活動を始めたのは前シリーズ19のエピソード2「Where My Country Gone?」からだった。サウスパークにポリコレ旋風が吹き荒れる中、ギャリソン先生は増え続けるカナダからの移民に業を煮やして「移民を全員ハメ殺す!」という公約のもと立ち上がる。
 もちろん、このギャリソン先生の行動は2015年6月に大統領選挙に共和党候補として出馬することを表明したドナルド・トランプがモデルだ。

 シーズン20で描かれるアメリカではあらゆる関係、あらゆる場所で分断が進んでいた。
 白人対非白人はカートマンの“TOKEN’S LIFE MATTERS"(※) と書かれたTシャツに、女性の男性上位社会への反発は“Skankhunt42”という人物によるネット上で女性をバカにする荒らし行為とそれに抗議してバレーボールの試合前の国歌斉唱で起立しない女子生徒たちに反映されている。
※トークンはサウスパーク小学校唯一の黒人男子生徒

 一方、「移民を全員ハメ殺す!」という政策ひとつで国民の分断を煽ってきたギャリソン先生は選挙前の世論調査で糞サンド(ヒラリー)に10%近い差をつけるほどに支持者を増やしていた。
 その裏には、“メンバーベリー”という人々を懐古趣味にしてしまう果物の暗躍があった--。メンバーベリーは『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』でいうところの“懐かしい匂い”のようなものだろう。

 大統領就任が現実味を帯び始めてギャリソン先生は途端に怖じ気づく。
「ホワイトハウスを牛耳って私は何をすればいいんでしょう?」「私たちは無政策のままホワイトハウスに突っ込むんですか?」
 かつての「就任1年目にはメキシコからの移民をはじめシリア難民、北朝鮮の首脳、麻薬の売人、広告業界など約760万人をハメ殺す!」という発言すら撤回するほど弱気になる。
 なんとしてでもヒラリーに勝たせるような選挙活動を展開し、選挙前最後のスピーチでは「私に投票しないでください。そして世界にスター・ウォーズの新作は微妙だったと示すのです。ヒラリーへのすべての票は『あの映画はただの同窓会だった』という意思表示となるでしょう」と国民に訴える。

 そして問題のエピソード7「Oh,Jeez」は、トランプ勝利という結果を受けて製作陣が土壇場で差し替えたであろうギャリソン先生の勝利演説シーンから始まる。
「人々は決めました。J・J・エイブラムスのスター・ウォーズの如くこの国をまた偉大にすると。では始めましょう。全員ハメ殺しです!」

 大統領選を終えたシーズン20はこの後、デンマークが開発した荒らし対策のネット履歴晒しシステムを阻止するため(大統領になったギャリソン含めた)サウスパークの住民が協力する、というストーリーになるのだが(※)、そのきっかけを作ったのが大統領選に負けたヒラリーというのがイマイチわかりにくい。ヒラリーはこの後一度も登場しないままシーズンから退場するし。
※ノルウェーやデンマークに伝わる妖精「troll」と英語でネットを荒らしを意味する「troll」がかかっている

 では、放送直前で差し替えられたヒラリー勝利を描いた「The Very First Gentleman」だと話の展開がもう少しすっきりしていたのだろうか。

 2016年の大統領選ではヒラリーを不利にするさまざまなフェイクニュースが流れた。例を挙げると、ヒラリーはISISに武器を売却していた、ヒラリーは70年代にオノ・ヨーコと恋愛関係にあった、などなど。

(余談)
 大統領選一週間前の10月30日には、ウィキリークスにヒラリー陣営の選挙責任者の私的メールが流出。このメールからヒラリーに近い関係者が人身売買や児童買春に関わっているとTwitterや掲示板に書き込まれ、これを信じた男による発砲事件まで引き起こした。ヒラリー落選に少なくない影響を及ぼしたこの疑惑は今ではフェイクニュースと結論づけられているが、最初のヒラリー陣営のメール流出はロシア情報機関によるサイバー攻撃と米政府は報告している。

 大統領選期間中、ヒラリーがトランプ発言含めたあるフェイクニュースに頭を悩ませていたのはたしかで、サウスパークで男子と女子を分断させた荒らしの描写はこのフェイクニュースの問題を示唆しているのだろう。

 エピソード6の最後に勝利を確信するヒラリーのもとへ選挙ブレーンがネット荒らしに関する資料を持ってやってくるシーンがある。
「デンマークのネット履歴晒しシステムの世界規模の運用は間近に迫っています。「そうなる前に荒らしの特定を止めなければ」「この人物はあなたの救世主になるかもしれません」

 フェイクニュースによって選挙活動を邪魔されながらも大統領選に当選したヒラリーがなぜ荒らしの特定を防ごうとしたのか?
 お蔵入りになったエピソードタイトルが「The Very First Gentleman」であること、放送された「Oh,Jeez」に登場したかつて不倫問題で騒がせたビル・クリントンの「妻を含めたすべての女はビッチだ」「女たちの男への復讐が始まる」という発言から推測すると、大統領選に勝ったヒラリーは自らが行っていた夫含めた男への復讐がネット履歴晒しシステムによって暴かれるのを恐れたのではないだろうか。

 つまり、当初の「The Very First Gentleman」では、世界を荒らしとネット履歴晒しシステムから救うきっかけを作るのはクリントン夫妻の夫婦問題だった、という風に持っていきたかったのかもしれない。


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