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『SUZUNARI』の歌詞分析

これは、国文Advent calendar2019の8日目の記事です。

今回は、前々からやってみたかったJ-POPの歌詞分析をやってみたいと思います。選んだ歌は稲垣吾郎さんの『SUZUNARI』です。吾郎さんといえば今日誕生日ですね、おめでとうございます。愛してます。歳の重ね方が天才的というか、年々美しくなりますね、祝うにふさわしい素晴らしい誕生日です。生まれてきてくれてありがとうございます。声が大好きです。


作詞は川谷絵音さんで、吾郎さんが出ていた『東京BTH』というドラマの主題歌です。

曲は迷ったんですが、米津玄師さんでやろうと思って難しすぎた(今も下書きに残っています)(マトリョシカが歌詞解釈批判の歌って気付いた人尊敬する)のと、せっかくこの日にアドベントカレンダーを書く機会が得られたので、吾郎さんの歌にしようと決めました。

歌詞はこちらのサイトから拝借しています。

吾郎さんもご自身のブログで少しこの曲について書いておられました。

川谷さんもTwitterで言及していたことがあるので、載せておきますが、歌詞の内容に関しては見つかりませんでした。ひとつめ ふたつめ

また、先行研究(?)がありましたので念のため載せておきます。が、読んでみたところ私とは違った意見になりそうです。

疑問点

1.  恋愛ソング?だとすればどの段階?
2.《癇癪持ちの脇役》の感情の起伏激しすぎない?
3.《その内きっと仲間になれるから》ってどういう意味?

タイトルの辞書的な意味

鈴鳴りではJapan Knowledgeや手持ちの辞書で見つかりませんでした。表記を変えると、『日本国語大辞典』(小学館、Japan Knowledgeより、2019/12/01閲覧)の【鈴生・鈴成】の項目に以下のようにありました。

(1)(形動)果実が、神楽鈴(かぐらすず)のように、房となってたくさん群がってなること。果実などが実って木にいっぱいついていること。また、そのさま。
(2)(形動)一般に、多くのものが一か所にぶらさがっていること。また、人が一か所に大ぜいかたまっていること。また、そのさま。
(3)植物「ざろんばい(座論梅)」の異名。

タイトルにもなっている鈴鳴りには、「鈴のように実がなる様子」を表す意味があるようですが、《遠くで鈴鳴りする声》という用法には合ってないように思います。

ネットで検索してみると、アコースティックギターについての記事がたくさんでてきました。一番上のページには、

鈴の音色を思わせるような、高域がきらびやかなサウンドのこと。
マーティンのギターサウンドを形容する際によく使われる。

とあり、どうも最近の音楽用語のようです。歌詞として使われたものも、この曲を含めて3曲しかなく、用例が少ない語句でした。
言葉からそのままイメージするに、「鈴がぶつかるようにきゃっきゃとはしゃぐ声」といったところでしょうか。

川谷絵音さんの語句の用法

川谷さんの歌詞の中でこれまでに「鈴鳴り」が使われたことは、調べた限りないようです。ファンの方、ご存知であれば教えてください。

ほかにも用例がなかった語句は、「おもちゃ箱」「人並み」などいろいろあるんですが、見つかった用例について述べておきます。

・仲間
これは疑問3に関連します。私立恵比寿中学の『あなたのダンスで騒がしい』のなかに、

静けさに似た反対派でも
わかり合えそうなら
いつでも優しく叫ぶから
ほら、仲間になろうよ

という歌詞がありました。さらに川谷さんが書かれた記事、『スピッツ 美しい歌詞だからこそ少し怖い』のなかに

ちなみに僕が一番好きなのは「芽吹きを待つ仲間が/麓にも生きていたんだなあ」の部分。この“いたんだなあ”という表現のすごみ。

という記述があります。
以上の用例から、川谷さんは仲間を、友達とか内輪、あるいは同類といった通常の意味で使っていることが窺えます。疑問1に関連すれば、仲間という言葉に恋愛的な意味を含んでいないと思われます。念のため『日本国語大辞典』(上に同じ)を引いておきます。

(1)いっしょに物事をする間柄。また、その人。友達。同輩。
(2)同種のもの。同類。「ヤマブキはバラの仲間だ」
(3)近世、商工業で営業上の弊害を防止し、共同利益を増進するために結成された同業者団体。官許を得たものを株仲間といい、そうでないものを、たんに仲間といった。

解釈

調べて分かることはこのくらいでしょうか。では歌詞を解釈していきますが、逐語解釈は、別のnoteに載せます。こちらを作ってから気付いた解釈もあるので、合わせてご覧ください。さきほどの疑問点を解決したいと思います。

疑問点1. 恋愛ソング?だとすればどの段階?

私はこの曲を「別れた女性との日々を想う男性の歌」と考えます。

「あの頃よりは/不真面目にもなれた」というワードから、過去の回想をしていることがわかります。「遠くで鈴鳴りする声」から想定される「君」とは、過去から関係が続いているのでしょう。少なくとも、交際の初期段階や、あるいは片想いの段階ではないでしょう。

次に、サビの「美化した思い出」という言葉が気になります。
別れた恋人との日々を美化してしまうことは往々にしてあると思うのですが、それらの日々を「思い出」と言ってしまっていることから、笑ったり泣いたり怒ったり許したりしたすべての日々が過去の思い出にすぎないことがわかります。付き合っている二人のそういった日常的な過去を「美化した思い出」と言ってしまうことには違和感があります。彼女との日常的な日々を、「思い出」として、貴重なものとして思い返すとしたらそれは、その日々が非日常になってしまったからではないでしょうか。

J-POPの恋愛ソングにおいて、交際する二人を「僕」「君」と表す例は(表記が異なるにせよ)とてもたくさんあります。AKB48の曲などを見るとそれがよくわかります。西野カナさんの曲などでは一人称が「私」になりますが、一人称に「僕」を使っていることから、男性目線の恋愛曲として解釈してしまってよいのではないかと考えます。

疑問点2.《癇癪持ちの脇役》の感情の起伏激しすぎない?

逐語解釈では、付き合っていたときは素直に感情を表に出せなかった男性が、自分の感情を表に出そうと練習する様子を描いている、と述べました。

そのような練習の過程で、少し大げさなことをしてみるというのは効果的な行程だと思っています。私は書道をしているのですが、大きな字で書かねばいけないのにどうしても字が縮こまってしまう時は、わざと紙からはみ出すくらいに字を大きく書いてみることでそのスランプから脱出できた記憶があります。

この「癇癪持ちの脇役」は、大げさな感情を出し続けている人として、この男性にとって好対照な格好の練習台、よき手本だったのではないでしょうか。少しも自分の感情が出せない、と悩んでいるからこそ、正反対のものすごく感情を表に出す人を真似て、自分の感情をだす練習をしているのだと考えます。するとこの「癇癪持ちの脇役」があまりにも大げさに「突然声を荒げたり/またすぐに笑み浮かべてみたり」していることに違和感を持つのではなく、むしろ男性にとっての憧れの対象としての側面が見えてくるのではないでしょうか。

ちなみにドラマでは吾郎さんは「癇癪持ちの主役」でした。

疑問点3.《その内きっと仲間になれるから》ってどういう意味?

先ほど「仲間」は恋愛的な意味ではないということと、この曲は恋愛ソングであることを述べました。それが矛盾しない解釈として疑問点2の内容も含めて考えていきたいと思います。

まず、この男性は「感情を表に出す練習をしている」と仮定します。彼女と付き合っている間も感情を素直に表に出せず(それが原因で別れることになってしまったのでしょうか)、それを悔いて変わろうとしています。

そんな男性にとって、感情を表に出せる人々(彼女や「癇癪持ちの脇役」を含む)と、自分は全く別の人種のように見えるでしょう。自分には練習してもできないことが、彼女らには自然にできてしまうのです。そして、全く別の人種に見えるのは彼女目線からしても同じだったかもしれません。

そんな男性が、練習を経て感情を表に出せるようになることは、彼女と同じ「感情を表に出せる人々」に「仲間入り」できる、ということではないでしょうか。その意味で、練習を経れば「そのうちきっと仲間になれる」と言っているのではないでしょうか。

ちなみに吾郎さんが所属する「新しい地図」のファンのことはNAKAMAと称されています。「新しい地図」の曲の中にも仲間というワードはよく出てきます。

例えば、『星のファンファーレ』の、

冒険を怖がる事はない
そこで初めて分かる事がある
考えすぎて足がすくんだなら
仲間と共に さあ地図を広げよう

や、『新しい詩』の

世界のどこかに
きっとNAKAMAがいるから

などです。これらを見る限り、曲の中にあえて「仲間(NAKAMA)」というワードを登場させているのではないかと邪推してしまいます。それによって出てきたワードだとしたら少し嫌なんですが。


総括

逐語解釈でも書きましたが、私は歌詞が好きなので歌詞を文学に昇華できないかと考えてこれに取り組んでみました。

よくボカロ関係の界隈では歌詞解釈や「歌詞の意味は?」といったテーマの分析がなされることがありますが、その多くは逐語解釈に過ぎません。逐語解釈にしろ、根拠を含め、人を納得させられるようなものはあまり多くありません。このページを書いたことで、歌詞解釈というものを逐語解釈以上の文学的意味のあるなにかに昇華できたのではないかと自負しています。

これを踏まえてまた歌を聴いていただき(YouTubeリンクを貼っておきます)、改めてご自分の解釈がありましたらコメント等頂けると幸いです。

役に立った、面白かった、新しいものに出会えたなど、もし私の記事が有益なものになりましたら、サポートをお願いします。