絶妙に小気味良いリズムのデスボイスが隣室から聞こえてくるのだが?

マキシマム・ザ・ホルモンのFみたいな感じ。
さてはやってんな、バンド(と書いて青春。とか言いだす笑)

高校生だった頃。ほんの少しの期間、軽音部に所属していた。知人にどうしてもと頼まれ(東京事変のコピバンをやろうというのにキーボーディストがいなかったらしい)、二年生の半ばという中途半端な時期に入部した。部の人たちはすごく優しかった。(キーボード担当が誰ひとりとしていなかったから丁重に扱ってくれていたのかもしれない。でもみんな根っから暖かい人たちだったと思う。)しかしながら、あまつさえ人見知りの僕がもう既に出来上がっているコミュニティにずかずかと入っていけるわけもなく…(僕を誘った知人はあろうことか入れ違いで部を辞めてしまった。ひどいや!)
ただ、そんな中で僕と唯一仲良くしてくれる後輩がいた。自他共に認める天才ベーシストのSくんだ。彼は弦がある楽器はなんでも弾きこなしたけど、殊にベースの演奏技術は他を圧倒していた。クラシック畑出身の僕は当時、他の音楽ジャンルにちゃんと触れたことがなく、うにょうにょ響く電子音と怒涛のバスドラシンバルスネア等の嵐に工事現場にいるかのような恐ろしさを感じ、ただ狼狽えるばかりであった。しかし、そんな喧騒にも親しみを覚えるに至ったのは他でもないSくんのおかげである。彼のグルーヴィなベースに心惹かれ、あれもこれもと聴いているうちにすっかりロックの虜になっていた。※あえて何ロックとかいう細かい区分は描写しないでおこう。互いに怪我したくないでしょう…
彼は中等部の生徒だったから(うちは世に言う自称進学校の中高一貫だった)、僕と学年は二つ三つちがったけど、僕なんかよりはるかに色んなことを知ってた。ただ豊富な知識を持っていたというだけでなくて、ありとあらゆるものを「嗜む」能力に長けていたのだ。
音楽に限らず、文学や映画や漫画やアイドルや、とかく自分の好きなものをたくさん教えてくれた。
「〇〇さん(僕の名前)、これ知ってる?知らないの?いや、まじで知った方がいい。知れ!今度持ってくるから!」
いつもこの感じでなんの脈絡もなくCDとかDVDとか本を半ば押し貸された。小生意気なやっちゃな、と思いつつも全面的に彼のセンスを信頼していたし、彼自身をとても尊敬していたので、なんだかとても光栄だった。あと、単純にどうやら懐いてくれているっぽいのが嬉しかった。
そんなSくんだが、彼には口癖があった。
「俺、アスペルガーだからさ」
これだ。これだけは僕ちょっと引っかかってた。
専門家じゃあるまいし滅多なことは言えないけど、実際彼にはそれっぽいとこがあったとは思う。能力一点集中型というか。


「俺アスペルガーだからさ。」
色々度外視してというかしてもらった上で言わせてもらいますけど、ダセーことすんなって言ってんの!!!馬鹿野郎!!!そんなん見とったらわかるわ!だからなんだってんだ!保険はるな!黙って己貫いてけよ!そんなこと言わなくたって君は最高じゃん!飄々としてるように見せとったん知っとるんやで?だっていつも不安と期待で目が泳いでた。あぶれてしまった自分。でも一線画している自分。その葛藤の内で揺れてたんやろ?

……。
やっぱり僕ってやな奴かな?まあそんなことはどうでもいい。何はともあれ、彼が僕の恩師であり憧れであることは今も昔も変わらない。
僕が卒業して離れたところに移り住んだ後も、彼とはちょくちょく連絡を取ってちょくちょく会っていた。しかし、超原理主義の彼は二十一世紀最大の文明の利器、携帯電話ないしはスマホを頑として受け入れず、次第にコンタクトを取るのが困難になっていった。僕も僕で、新たな地で新たな人と触れ合うのに忙しくなって、Sくんとの交流はいつしか途絶えてしまっていた。

しかし、先日。
風の噂で、彼がweb漫画家になったという報せを受けた。急いで作品名を検索したら、難なくヒットした。作者名の欄にはSくんの名前(本名とは多少違っていたけど)が。結構なボリュームだったにも関わらず一気に読み通してしまった。
暑苦しいし泥臭かったけど、芽吹く若葉のような生き生きとした力強さに満ちた、非常に彼らしい作品だった。
なんだ。しっかりデジタルに馴染んでんじゃねーか。思わず微笑んでしまった。
と同時に思い出した。昨年のいつ頃か、とある番号から着信があったのだ。電話コワイコワイ病を患ってるので、普段は極力電話に出ない僕だがその日はなんとなく自然と手が伸びた。
「はい、〇〇ですが、、?」
「ぁのっ、あ、ゃ、やっぱりなんでもないですすみませんまちがえました」
ガチャリ。ツー…ツー…ツー…
その時は「電話ってやっぱ怖え〜二度と出るもんか」としか思わなかったけど、よくよく思い返してみたらなんか聞き覚えがあるようなないような声だった。気がする。
最後にもう一つSくんの口癖を紹介しよう。
「俺、天才だからさ!」
ことあるごとに勝ち気な表情でそう言ってのけた彼。でも僕は見逃してなかったんだぜ。そう言うたび君の耳が赤くなってたこと。
あの時の電話がもしSくんだったのだとしたら…
もし漫画家になったことを伝えようとしてくれていたのだとしたらひょっとして…


君が表現の道に進んでいて心から良かった。
そして、画面を通してではあるけどまた君に会えたこと、本当に嬉しく思う。

陰ながら応援しております。
🤞🤘🤘


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?