小説:望んだ未来へ

自作の短編小説。よければ楽しんでみてください。

『2154年10月11日。本日の天気は、晴れです。おはようございます。』

テレビからアナウンサーの声が聞こえる。
ようやくこれた、11日。ベッドから起きて台所へ行くと、アイツが居た。

「あ、ようやく起きた?カズキ、おはよう。」
「ユキ!!」

俺は思い切り抱きしめた。今までの分も、気持ちも込めて。

「え!?ど、どうしたの?流石にちょっと恥ずかしいよ。」
「あっ、ごめん。……悪かった。」

直ぐにユキから離れる。
……ユキからしたら、『なんでも無い次の日』なんだった。
でも俺はこの日に辿り着くまで、3日間をやり直してきた。
10月8日から10月10日までを、何度も何度も。
どうやっても、この日を迎えられなくて、何度もやり直して。
ユキが俺の前から居なくなるだけならまだしも、何度かはユキが……。

「どうしたの?カズキ。何か悲しいことでもあったの?泣いてるよ……。」

心配そうにユキが俺の顔を覗き込んでくる。気づいたら泣いていたようだ。
何でも無いよと涙を拭いて俺は笑う。

「ユキ、伝えたいことがあるんだ。」
「なんだい?」

ユキの両肩をしっかり掴んでまっすぐ見つめる。
10月8日に、喧嘩して虚勢張って、言えなかったこと。
10月9日に、ユキは家を飛び出して。
10月10日に、俺の目の前から何度も何度も……。
そして俺はそのたびに時間が10月8日に巻き戻って。
何をしたら良いのか、どうしたらユキを救って、次の日へ行けるのか。
ずっと考えていた。その答えは、案外単純だったんだよな。
それが分かったらやることは一つだったんだ。

俺はユキと離れたら、ダメなんだ。
それをちゃんと伝えて、最初からプロポーズすればよかったんだ。

「ユキ、好きだ。誰よりも一番好きだ。俺と一緒になって欲しい。
 これからもずっと。愛しているから。」
「ようやく言えたんだね、カズキ王子様。待ちくたびれたんだぞ。」

そういって笑うユキがとても可愛くて、また抱きしめた。
今度は優しく、温かいぬくもりを感じた。

「答えは最初から決まってたよ、カズキ。」

そう言って、ユキは俺と唇を重ねた。

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