小説:秘密保持契約書

自作の短編小説。よければ楽しんでみてください。

1.名前、年齢以外、過去について話してはいけない。
2.10年後、対象者が成人するまで保護し、守らなければいけない。
3.契約内容・理由を対象者に話してはいけない。
アナタは、秘密保持契約書を契約しますか? YES/NO

「お母さん、こっちきて!」

そう言われて、コンロの火を止めて、息子のところへ向かう。

「ほら見て、絵を描いたんだ!
 こっちがお母さんで、そっちはボク!」

にこにこと、笑顔で描いた絵を見せてくれる。

「上手に描けてるわね。将来は画家さんになるのかな?」
「ううん、ボクはお医者さんになりたい!」

そんなことを言ってたのは、いつのころだったろうか。
あれから、今日で十年目の誕生日。

「誕生日おめでとう、もう今年で18ね。
 来年からは一人暮らししてみたいんだっけ?」
「うん、母さんごめんね。」

急にインターホンの音が鳴る。何となく見当はついていた。

「私が出るわね。」
「あ、ボクが出るよ。母さんは座ってて。」

そう言って息子が出ると、外には黒いスーツとサングラスの男性が3人。

「何か御用ですか?」
「……そうですね、あなたに。」

小さくスーツの男が何かを呟くと、息子の意識がなくなりスーツの男に倒れこむ。

「秘密保持契約、守っていただけたようですね。」
「……守ってたわよ。」
「こちらも手荒な真似をせずに済みました。では、この『T-101』は回収していきますね。」

成長し、意志のあるロボット。それが息子だったもの。
もうあれは、アンドロイド、人造がどうとか言うレベルじゃあ、ない。
あんなものを作ってる会社があるなんて、気が狂ってる。
そんなロボットに未練がある私も。
曲がりなりにも10年以上世話をしていたから、情でも移ったんだろうか。

TVCMでは、人間に似たロボットが笑顔で解説している。
もう、人間とロボットの違いは、何もなくなっていた。

だけど、あの子からしたら、私はまだ母親のはず。
そう組まれたプログラムなだけかもしれないけど、それでもいい。
この10年の間に対策は考えておいた。ルートも調べた。
……私は、息子を、取り返すだけだ。ただ、それだけだ。

グッと手に力がこもる。深呼吸してからスマホを見る。
画面には、GPSによる位置情報とマップが表示されている。
目的地は現在移動しており、その目的地は。

「じゃ、ここからは、母さんが頑張ってみる時間、だね。待ってなさい。」

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