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【エッセイ】成人式の思い出

何だか朝早くから美容院が騒がしいと思ったら、今日は成人式のようだ。

成人式といえば思い出す事がある。

成人式の思い出。

と言っても、僕の成人式ではない。

今でこそリーゼントを作るのが上手くなったが、僕の成人式の思い出と言えば、当時、へったくそなリーゼントをかまして会場に参加し、帰ってきて地元で飲んだぐらいだ。

あ、リーゼントと言ってもヤンキーではないのであしからず。

ロッケンロールの方だ。

そんな自分のしょうもない成人式より思い出す事がある。

§

僕は大学卒業後、とある会社に勤めていた。

そこにアルバイトの子がいた。

仕事熱心で頭も良く、飲み込みも早い。

お父さんが警察官だからなのか、礼儀も正しい。

何せ僕は若者が好きだ。

年輩の方々から学ぶこともたくさんあるが、若者から学ぶこともある。

若者のエネルギーに触れるだけで刺激も貰えるし、未来ある若者を応援したくなる。

ぼんじりの中の人に、リアルで後輩が多いのも、きっとそれが要因だろう。

そんなこんなで、僕はそのアルバイトの子に仕事を教えるのが楽しくなった。

やがて勝手に師弟関係を結び、僕はその子を「胤舜いんしゅん」と名付けた。

漫画家・井上 雄彦先生が好きという共通点から、バガボンドに登場する宝蔵院 胤栄と胤舜からあやかったのである。

§

胤舜はとても変わっていた。

お菓子の箱の匂いを嗅ぐのが好きらしい。

ぼんじりも匂いフェチだが、お菓子の箱の匂いを嗅ごうとまでは思わない。

お菓子は食べてなんぼだろう。

他にも変な恋愛歴を持っていたが、胤舜のプライバシーに関わるので割愛させて頂く。

年下ながら、一見、しっかり者の胤舜の変わった所を探すのが僕は好きだった。

話をすればするほど、何か達観しているというか、単純に変わっているというか、他の同世代の子には無い魅力を持っていた。

仕事ができるのも納得だった。

そんな胤舜を、過去一番、「ぶっ飛んでんなぁ」と思ったのは、胤舜が成人式を迎えた日である。

§

当時の職場はシフト制だった。

胤舜の成人式が近くなった時、僕は冗談で

「胤舜、成人式行かんと出勤するんやろ?」

と、よく言っていた。

胤舜は胤舜で、

「出勤しますよ」

と、言っていた。

僕はてっきりそういうノリだと思っていたが、シフト作成の時、実際に胤舜は自分の成人式の日にシフトを入れてきた。

「胤舜、ホンマにバイト入るん?」

「入りますよ!」

「いや、成人式やで!?」

「だって入れって言うたじゃないですか。それに成人式に行っても別に何もないでしょ?」

胤舜は成人式の日にバイトに入ろうとしている。

本気なのか?

本当にそれでいいのだろうか?

成人式なんて、一生に一度の事だ。

大人になりましたと社会に認められる日だ。

みんながみんな着飾って、その晴れ舞台を迎える。

胤舜。

君は本当にそれでいいのか?

もう一度聞く。

君は本当にそれでいいのか?

だって。

君は。



女子なんだぞ!?



胤舜は女の子なのだ。


女の子の成人式と言えば、朝早くから予約した美容院に行って、綺麗な髪型とメイクをしてもらい、選びに選んだ振袖を着て、べっぴんさんになった自分を御披露目する大イベントだ。

男子のそれとはちょっとワケが違う。

結果、胤舜は、一応、振袖の写真を撮ったそうだが、成人式当日にはホンマに普通に出勤してきた。

§

成人式と言って思い出すのはこの事だ。

確かに当時の職場は忙しかったので、従業員みんな助かったのだが、正直、僕はあの日の事を後悔している。

胤舜は自分の成人式より、師弟関係を大事にしたのかもしれないが、本当の師匠であるというならば、有無を言わさず成人式に送り出すべきだった。

今の僕なら間違いなく「成人式に行け」と言うだろう。

胤舜の気持ちは嬉しかったり、「相変わらずぶっ飛んでんなぁ」と面白かったが、できることなら、あの日の胤舜に「成人式に行け」と言ってやりたい。

今の胤舜は、結婚をし、子どもにも恵まれ幸せにしている。

ご主人のお仕事の関係で神戸を離れ、新潟に住んでいる。

遠く離れているので、年賀状のやり取りぐらいしかできないが、元気そうで安心だ。

僕はこのnoteをはじめ、Twitter、インスタと、さくら ぼんじりの活動を始めたが、この事を知っているのは、リアルでは1 人しかいない。

ぼん嫁をはじめ、家族、友人には誰にも教えていない。

もちろん、こっ恥ずかしいというのも理由のひとつだが、この活動は、壮大な「遺書」のつもりでやっている。

いつか、ぼんじゅに(6 歳の息子)が大きくなったら教えてやってもいいが、それまではこっそりと書いたり、描いたりしていたい。

でも胤舜にはいつか教えてもいいと思っている。

昔、僕がブログを書いていた時も、胤舜はこまめに読んでくれていた。

だから、胤舜には教えてもいい。

胤舜ならきっと僕のワケのわからない脳ミソも理解してくれるだろう。

そして、僕は僕で、胤舜を信頼しているし、大事に思っている。



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