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【詩・ポエム】Vol.37

『視度・微写為(シド・ヴィシャス)』

ゼロに近い視界
歪んだその世界

赤林檎も
青林檎も
蜜柑だって
乱れるように

開いた半円の花
近づけば近づくほど
ひとつになる

降りしきる雨の中
しかめたツラを
誰が見る

額にあたる痛み
気にせずにいたい

今は真夜中
神様以外に
誰が見る

あぁ、どうか神様
次にオレを組み立てる時は
プラスドライバーで
お願いします

マイナス思考なんて
うんざりなんだ

信じちゃねーよ

神などいない
歪んだこの世界

§

『太陽と月のかくれんぼ』

太陽が寂しくなれば
月は青空にも昇る
白い月を見上げて
僕は美しいと思った
純粋にそれだけを思えた

太陽と月のかくれんぼには
終わりがないと聞かされたが
太陽はものの見事、月をつかまえ
月は桃の雲と笑ってみせた
日を追う毎に笑ってみせた

それは試練か悪戯か
心許ないと
暴きに暴いた
過去を戻せないと
嘆きに嘆いた

そんなはずはない
これなら戻せると
砂時計をひっくり返す

太陽が沈む頃
雲はまた桃色に染まり
「次は私の番よ」と
月はまた昇る

太陽はそうして
安心して眠りにつく

夜空にも青空にも
昇る月の痛みに
感謝して眠りにつく

§

『消し去る』

降りだした雨の中
幕の合間に
オレはタバコを吸っていた
人でいう真夜中だ

雨音は強くなる
昼には上がるだろうかと
心配してみる

そういえば
根元まで吸いすぎだと
昔、誰かに言われたな

そんなことを思い出しながら
短くもなく長くもないソレを
落ちてきた雨粒で消した
そんなことに純粋さを求める

いつの間にか上着が濡れていた
懐を確認してみる
もちろん大丈夫だ

いっそこの罪も憂いも
このタバコと一緒に
夜雨に消し去りたい

おこがましき夢だ

さて行くか
オレの幕が上がる

懐にはサイレンサー
お前の幕を下ろす

§

『ソラトブーツ』

新しく手に入れたブーツ
バランスが上手にとれない
ずっと不安なんだ

最高速度で駆け抜けたいのに
こうもバランスが悪くては
不安で仕方がない

それでも暖かいこのブーツ
つま先は踊る
かかとは鳴る

雪の上も
コンクリートの上も
きっと大丈夫

愛情の飢えも
明日への憂いも
きっと大丈夫

そうさきっと大丈夫
そうさもっと上へ
もっと上へ

空とブーツ
空飛ぶブーツ

バランスなど気にせず
いっそ飛んでしまえ

§

『齢、十か十一』

命の終わりを待つ者
それに抗う者
それすら気付かぬ者
ふらふら触れる
揺れるゆらゆら

その者たちが住む箱に
君は人知れず上った
誰にも気付かれないよう
夜の闇を選んで上った

屋上から見下ろした時
君は同じように見下ろせたかい?

君を嘲笑し痛めつけた奴らを
その高い所から少しでも見下ろせたかい?

君はその羽を広げ飛び立った
この汚れた世界から飛び立った

しかしながら現実には
君の体は真っ逆さま
君は土へ還った

わずかその数秒間

君は何を思っていたのだろう?
君は何を想っていたのだろう?

怖かったかい?不安だったかい?
それともすでに気を失っていたのか?

齢、十か十一

弱いということは儚きこと
儚いということは美しきこと
美しいということは強きこと

齢、十か十一の君よ

君はけして弱くはなかったのだ
君は強かったんだよ

土へ還るまでのその瞬間

わずかその数秒間

君が本当にその羽を広げ
まるで空を飛んでいるかのような
そんな錯覚に

最後の最後ぐらいは
幸せに笑っていたことを願う

でも心配するな
生まれ変わったなら
きっと本当に笑えるはずさ



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