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【ゆっくり急げ -Augustinus-】クアラルンプール国際空港

入国審査官は真っ黒い顔のモジャモジャインド系おじさん。
指をガラスパネルに押し付け、指紋を提出。
できるだけ愛想良くイノセントな表情で立っている私の前で、審査官はゲート越しに同僚と大声でおしゃべり。
長いように感じたけれど2分程だったかもしれない。
ポイっとカウンターに戻ってきたパスポート。
無言。私の顔さえ見たか見ないか、というような具合だったけれどプロだからちゃんと見ているんだろう。それとも今の時代はテクノロジーが私を見ている?
入国審査までAIで済む時代になってしまうのか…
「?!…これでおわり?」と聞くと「終わり!楽しんでね。」と。
入国の目的も聞かれることなく無言の入国審査完了!

夜21時頃のクアラルンプール国際空港

荷物を受け取り、割高であろう空港の両替所でタクシーに乗るための現金を手に入れた。晩御飯のおにぎりをファミマで買い、タクシーカウンター探し。
ネットで調べれば直ぐにわかる時代。しかし、簡単に情報を手に入れてしまうと、困ることなく人生をやれてしまう。そんなの面白くないから、ほとんど何も調べずにマレーシアへ来ちゃった(笑)

タクシーへ無事に乗れるのか、乗ったところで不運にもナイフなんかが出てきてヒハギに遭いヤシの木の下に放置という結果が待っていたりはしないだろうか、放置されたら蚊に確実に刺される、デング熱、脳炎、ツヤツヤして硬い虫もいっぱいよって来そうだ…なんて心のバックグラウンドで一瞬想像しながら、タクシーカウンターを探す。
タクシーカウンターで行き先を言えば、先払いで精算することができるのでトラブルを防ぎやすいのだそう。このシステムがあって良かった。
渡航前に治安情報だけは徹底的に調べたので、空港でのタクシーの乗り方は知っていたのだ :) 
到着は20時台だったが、うろうろしているうちにもう22時近くになっていた。
飛行機は着陸してから、機体から降りられるまでが長い。それなのに、機体が停止した途端に荷物を取るのを周囲の乗客から急かされるのは世界共通なのだろうか。
重いバッグを棚から下ろして背負い、通路に立つ。そして扉が開くまでの長い間、目の前の人の背中を見ながら立ち尽くす…浴びる放射線量の話を別にすれば、乗り物はやっぱり窓際がいいな。

急ぐと人は碌なことにならない。
ただ、此処はマレーシア。世田谷の22時とは意味が違うんだ。
ゆっくり、急ごう。そう思って歩いていたが、表示通りに行ってもなぜか同じルートをぐるぐるしてしまい、タクシーカウンターにたどり着かない。「話を聞かない男、地図が読めない女」とかいう本もあるけれど、これだけどでかい表示がある空港でさえ迷うんだから、昔だったら私はもう失踪しちゃってた人かも。
GPS時代に生まれたことに感謝。
情報案内らしきブースを見つけ、タクシーカウンターの場所を教えてもらうと、カウンターは外だった。だから見つけられなかったのか。
むわ〜っと暑い外へ出るとすぐに、カウンター発見!
(あっ、金を用意しなければ。)両替した直後、バッグの深いところへ大切にしまった現金。一万円を両替した後に大金をもった人の気分になり、悪い人に見つからないよう奥底にしまったのだ。
一万円の価値はどこへ行っても同じはず…あれ?違うんだっけ?もしかしたら違うかもしれない。銀座に出かける日にもつ一万円と、東南アジアで持つ一万円はきっと別のもの。
現金を受け取りすぐに隠したので、まだよく見ていなかった。一度ファミマに戻り、ゴソゴソとバッグの中で紙幣を確認。1リンギット札も混ぜてくれていたので枚数が多かった。細かい紙幣を入れてくれるところが親切。空港だからだろうか?

タクシーカウンターでプチショックが起こった。
そこに居たのはつまらなそうに仕事をするムスリム系のお姉さんだった。
行き先を告げて、料金を計算してもらい正当な料金であることを確認して50リンギット札を渡す。すると、紙幣の分のお釣りは渡してくれたが小銭は渡さないつもりのようだ。紙幣をシュッと雑に寄越してあとは別の仕事に戻るそぶり。
(あれっ?もしかしてチップ?それはないはず。)
「私は小銭を待っている」そう視線を送りじっとそこに立ったままでいると、不貞腐れた顔で私をじっと見て少ししてから小銭をポロん…ポロン…カランコロン。と金属の受け渡しスペースへ投げてくれた。(へぇ!観光客相手だからこういうのもアリなんだ。札のお釣りだけもらって帰る人も結構いるんだろうな…こういう国に来たのか….とこれからの生活にほんの少し不安を感じた。今思えば、コインは小さい額だから渡さなくてもいいってことなのだろうか?SENでもμでも私は気にしちゃうのよ、ごめんね。笑)

お姉さんはタクシー運転手を呼び情報の書かれたレシートを渡す。
私は無事に運んでもらえるのか不安で凍てついた心で熱帯の夜へ踏み出した…



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