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53 すうっと蝶ふうっと吐いて解く黙禱

 句集「むずかしい平凡」自解その53。

 これは師・金子兜太先生が亡くなって、ひと月ほど経った頃の作。

 秩父長瀞で最後の「海程・俳句道場」が催され、金子先生の墓参に赴いき、そのときに生まれてきた句。

 お墓の前に立ち、黙禱をし、ひとしきり心の中で会話をした後、黙禱を解く。そこをすうーっと蝶が横切って行った。

 このすうっと横切っていったときの呼吸が、なんだか自分が黙禱を解いたときの息遣いに似ているような感じがしたので、こんな句になった次第。ひょっとしてこの蝶は金子先生の魂の一部かも、などと思ってみたりもする。

 ギリシア語で蝶のことを「プシケ」というそうです。そして、この「プシケ」には「魂」という意味もあるとか。

 あんまりこういうことを言いすぎるとスピリチュアルすぎてうさん臭くなってしまうので、この辺でやめておきますが、ただ、そう思えるようなことってあります。そしてそういうときは素直にそうなんだと思ってみていいんじゃないかなとも。

 そうそう、よく金子兜太先生は言っていました。「生き物感覚」は大事だよ、と。俳句という文芸は小さいからこそ、生き物感覚は命だとつくづく思います。

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