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12 無名の山植田にくっきりと感情

 句集「むずかしい平凡」自解その12。

 東北に限らず、初夏の植田の広がる風景というのは、ふしぎと原郷というものを感じさせるものがあります。うちは農家でもなかったし、田植えの重労働を知っているわけでもないんですけれどね。

 それでも、田んぼというのは日常に近いところに存在していたし、なにしろ毎日ご飯を食べている。そのご飯の生まれる場所を毎日目にしているのだから、これを故郷といわずして何が故郷ならん、などと力むこともありませんが、なんとなく、自分のルーツというものを感じてしまいますね。

 春の耕しから、田水を張って、田を植える。植えた苗が風にそよいでいる。

 自宅の近くにもそんなごくごく当たり前の風景が広がる場所があって、そこに山の姿が映っている。名前もないような山です。ところが、そんな山でも、植田に映っていると、妙に生き生きして、まったく別の生き物に生まれ変わったような感じをしているんですね。ああ、山にも感情があるんだな、山よ、お前も生きているんだな、と。

 変なリズムですが、これも俳句ということで。

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