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古代の人間は骨髄を食べていた⁉︎ 草食動物も骨をかじる

  40万年前から20万年前に、初期の人類が居住していたとされるイスラエルのケセム洞窟では、動物の骨髄を食物として消費していた痕跡があり、テルアビブ大学の研究チームは、この頃の人類が、動物の骨を皮つきのまま保存することによって、数週間にわたり骨髄の栄養価を保持したままで保存し、栄養価の高い骨髄を食べることが可能であったと考察しています。(Bone marrow storage and delayed consumption at Middle Pleistocene Qesem Cave, Israel 420 to 200 ka ,R. Blasco, ほか.Science Advances  09 Oct 2019:Vol. 5, no. 10, eaav9822. DOI: 10.1126/sciadv.aav9822)
 必ずしも毎日食料が確保できるわけではない狩猟採集時代、栄養価の高い骨髄は貴重な栄養源であり、狩猟で得た獲物は、骨まで感謝していただいたのでしょう。
 更に驚くべきことに、草食動物であるオジロジカがヒトの骨をかじる姿が、人体の腐敗過程を研究する中で偶然撮影されたと、ナショナルジオグラフィックが2017年5月11日の記事で報じました。

 この症例は米国科学捜査学会の公式出版物であるJOURNAL OF FORENSIC SCIENCES で発表されています。(White‐tailed Deer as a Taphonomic Agent: Photographic Evidence of White‐tailed Deer Gnawing on Human Bone. Lauren A.Meckel M.Aほか. JOURNAL OF FORENSIC SCIENCES, Volume63, Issue1. January 2018.P.292-294)
 犬たちは、骨をかじるのが大好きですし、ライオンやハイエナといった肉食動物が骨を食べることは容易に想像できます。しかし、シカが骨をかじるのは意外に感じます。実は肉食動物に限らず、草食動物であるキリンやウシも、死んだ他の動物の骨を食べることがよくあるようです。

 ではなぜ、古代の人間、草食動物までもが骨を食べたのでしょうか?

 骨と言えば、カルシウムのイメージですが、コラーゲンを土台としてマグネシウムとカルシウムが結合することによって、弾力のある丈夫な骨ができています。
 骨塩と呼ばれる骨の外側を覆っている硬い部分は、カルシウムとリン酸がメインのミネラル、その内側の骨期質はコラーゲン性タンパク質と非コラーゲン性タンパク質で構成されています。
 鹿などの草食動物は、このカルシウム・リンなどのミネラル補給のため、時として死んだ動物の骨を食べると言われています。
 では人間は?
 骨の中身である骨髄には、血液成分を生み出す造血幹細胞があり、毎日何億もの血液成分(赤血球・白血球・血小板)を生み出しています。ご存知の通り、白血球には好中球やマクロファージ、リンパ球、NK細胞、形質細胞など免疫に関わる細胞が含まれています。
 そしてその造血幹細胞の働きを支えているのがストローマ細胞で、沢山のタンパク質を分泌しています。このストローマ細胞は抗炎症性物質のサイトカインも分泌しています。
「骨」という一見無機質なものの中で、実は複雑な生命活動が行われているのです。
 生命維持の根幹とも言える骨髄は、タンパク質とコラーゲンによって構成され、更にその中の細胞が日々沢山のタンパク質・コラーゲンを生み出し続けている臓器なのです。
 タンパク質・コラーゲンは、私たちの体を作り出すもとであり、日々私たちの体は、摂取したタンパク質を消化してアミノ酸に分解し、再合成して新たな細胞を生み出し、臓器や筋肉、粘膜、皮膚、血液などあらゆる体の構成要素を修復・再生しています。そして、酵素や免疫、ホルモン、光や匂い、味といった感覚を司るレセプターもタンパク質なのです。
 つまり、骨髄には生命の源とも言える貴重な栄養素が、たっぷり詰まっているのです。古代の人間は、その栄養素を求めて動物の骨を食べていたと考えられます。