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■ボーンブロスに欠かせない「健康な動物の骨」を考えたときに、鹿骨にたどり着いた 

 私がボーンブロスを知ったのは、2017年にルークス芦屋クリニックの非常勤看護師として働き始めた事がきっかけでした。城谷昌彦院長が、患者さんにボーンブロスをお勧めしており、クリニックの栄養指導では、入手しやすい鶏の手羽先や手羽元を使ったオリジナルのレシピを紹介していました。実際に、毎日の食事にボーンブロスを取り入れて、受診当初からは見違えるように元気になられた患者さんを目の当たりにし、食事療法の大切さを感じざるを得ませんでした。もちろん、ボーンブロスだけの力ではなく、様々な治療と合わせた結果なのですが、元気になられた患者さんが、その後も「ボーンブロスを継続されている」という点に興味を持ち、私も健康のために取り入れてみたいと思い、まずはクリニックのレシピに習って鶏の手羽元で作りはじめました。

 医食同源という言葉があるように、健康は日々の食事から始まります。治療の土台を整えるために、体調の悪い患者さんにこそお飲みいただきたいスープなのですが、ボーンブロスの難点は、調理に時間がかかることです。
私も、仕事をしながら毎日のボーンブロスを作り続けることは困難でした。   当時、市販されている質の良いボーンブロスは稀少で、患者さんに気軽にご紹介できるものがありませんでした。城谷院長はじめクリニックのスタッフは、手作りが困難であったり、忙しくてキッチンに長時間立てない患者さんにも活用してもらうために、出来上がりのボーンブロスを作れないものかと考えていました。    そして、その場合に課題となるのは、何の骨を使うかということです

 ボーンブロスにとって欠かせないのは、健康な動物の骨です。放牧され、牧草を食べて育つグラスフェッド牛の骨が推奨されていますが、拘束飼育と輸入穀物を使った配合飼料飼育が主流の日本では、グラスフェッド牛の骨は入手が困難で、継続が難しい状況です。入手しやすい鶏ガラや手羽先を使った手作りがポピュラーなレシピとして紹介されていますが、これもまた、平飼いと自然な飼料で健康に飼育された鶏はごく一部です。
 戦後、畜産技術が発達し、人の口に美味しく感じる食肉が開発され、私たちはお肉を安価で気軽に買えるようになりました。しかし、その美味しさや安定・大量供給のために、不自然な配合飼料や薬剤の使用、劣悪な飼育環境があるのが現実です。
 折しも、私は保健師・看護師として働く傍ら、地元の猟師さんの手伝いで、鹿肉の解体処理と販売を行っていました。日本では2011年から毎年、全国で年間40〜60万頭の鹿が、有害鳥獣として駆除されています。増えすぎた鹿が山を食べ尽くしてしまい、山の生態系を崩すだけでなく、農作物にまで莫大な被害が及んでいることが、大量駆除の理由です。
 鹿肉は美味しくて、健康に役立つ肉であるにも関わらず、駆除されたもののうちジビエとして活用されているのは僅か1割程度に留まっており、ほとんどの鹿がただ殺され、捨てられていることに疑問を持ってはじめたジビエ販売業でした。
 日本において鹿肉は、狩猟採集時代から第二次世界大戦後まで、貴重なタンパク源として食されてきた山の恵みです。脂質は牛肉の約1/6、エネルギーは牛肉の約1/2と低カロリーでありながら、タンパク質は牛肉の約1.4倍、鉄分はもちろんのこと、ミネラル・ビタミンもたっぷり取れるスーパーフードなのです。

 そのことを城谷院長にお話した時に、「自然の山の中で元気に育った鹿の骨は、ボーンブロスに最適なのではないか」というご提案をいただきました。早速、家で鹿骨を煮出してボーンブロスを作ってみると、これがサッパリとしてとても飲みやすかったのです。そこで、鹿骨を使ってボーンブロスの開発を進めることになりました。

 後に海外経験が豊富な患者さんから教えていただいたのですが、ヨーロッパ諸国・オーストラリア・ニュージーランドなどでは、牛肉はグラスフェッド(牧草飼育牛)が主流なのだそうです。狩猟肉も活用されており、ニュージーランドでは、「Deer enclousure 」という野生のシカを囲って安定的に供給するシステムがあって、パイやステーキ、シチューなどの料理に使われていることや、ドイツでは、ジビエの季節になると、お肉屋さんの軒先に猪やウサギ・キジなどが吊るされているというお話を伺いました。
「ボーンブロスに使う骨は、健康な動物の骨を使いたい」という観点は、日本の畜産を考え直す一つのきっかけにもなるかもしれません。

【引用参考文献】

農林水産省:鳥獣害日被害の現状と対策(令和2年11月)