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人口増の軽井沢、スーパー「ツルヤ」は移住を促す磁場?

長野県の軽井沢は別荘地という土地柄、「犬を連れたリタイア・セレブ」が多い気がします。近年は、移住組が増えているそうで、人口も増加傾向にあるようです。


軽井沢ならではの魅力が人口増に

軽井沢在住の女性は「私が軽井沢に嫁いできたときには、人口は1万5000人でした」と話していました。恐らくこの方が嫁がれてきたのは昭和60年の頃かと拝察します。

その後、令和4年の人口は1万9000人を超えました。近年もその傾向を維持しているのか、廃屋も散見される一方で、各地で「新規物件、工事中」の看板を目にします。


民家には季節の花が咲き乱れ…

どの自治体も「移住の取り組み真っ最中」ですが、長野県は海から最も遠い内陸の土地柄とはいえ、この軽井沢町は他にはないアドバンテージがあるようです。思い当たるのは以下の点です。


1:避暑地として古くからブランド化されていた。1870年代から欧米の宣教師や測量士、医師などがここを訪れていた。宣教師アレクサンダー・クロフト・ショー氏は「気候や風土が故郷と似ている」と感じたとか。異国情緒に結び付くイメージ。

2:同じころ、明治天皇がここを訪れた。また戦後は昭和天皇皇后両陛下が避暑で滞在、三笠宮などの皇室の別荘も建築された。昭和33年軽井沢での「テニスコートの出会い」が正田美智子様のご精魂へとつながるなど、皇室と結びつくイメージ。

3:地理的には長野県の最東端にあり、より都心からのアクセスは良好。温泉地もある一方で、洋食系の名店も充実。そこに加わるプリンス系のショッピングモールなどが、さらにブランドイメージを強化。


インバウンド客も多い旧軽井沢銀座通り

これに加わるいくつかの要素が、さらなる移住を促進しているのではないかと感じました。


1:子育て環境の充実。たとえば「湯川ふるさと公園」やその一部を形成する「自然散策路」。湯川のせせらぎをうまく生かした散策路で、「距離的にもしっかり歩いた感」もあります。半端感のない、とてもいい設計だなあと感じました。


日本にはこんなに川があるのに、流れに沿った散策路は珍しい

2:ワンちゃん中心の社会構造。ドイツに匹敵するぐらい、ここでは犬が市民権を得ています。ワンちゃん同伴OKの飲食店が多いことや、ワンちゃんへのサービス(医療、シャンプー、トリミングなど)が産業化されている点も見逃せません。(日本のペットの飼育数は、15歳以下の子ども数とほぼ同等)


犬も飼い主も癒される散策路

3:スーパー「ツルヤ」の存在。明治25年創業のツルヤさんの売り場は、長野県産の物産とナショナルブランドのミキシングがとてもすばらしいです。地元市民から観光、避暑で訪れるセレブまで、どんな人にとっても手ごたえある品揃えを実現させています。


地元のワインや日本酒、ビールが豊富に陳列

全国チェーンのスーパーにないものを仕入れ、全国チェーンのスーパーにできないことをやっている、それがツルヤさんだと感じ、「ひょっとしたら、このツルヤさんがあるから移住を決めた人もいるのではないか」と思いました。


思わぬところに「長野県らしさ」。売り場には探す楽しみも

ここに行けば都会にはない「おいしいものがある」、その品揃えと見せ方、そして経営者のはっきりとした理念が結びついて、移住促進の磁場を形成しているのではないでしょうか。


都会にはありえない充実の野菜たち。すべてに産地表示
観光客向けのお土産陳列も。生活者・観光客、どちらも満足


さて軽井沢は、ちょっとした戸建ても1億円を超える値段がつくバブル状態にあります。不動産に価値がつけば、不動産取得税や固定資産税などの諸税で町が潤います。しかしながら、他の他の自治体が「明日の軽井沢」を目指すのは危険だと考えます。


軽井沢駅前の昭和レトロな食事処。再開発の波に呑み込まれる?

これは、お隣の国の中国に見る失敗談にも明白です。2000年代、不動産価格が上昇する上海を、全国の省・市政府が模範とし、「商品不動産」の建設を増やしました。その結果、誰も済まないゴーストタウンができたことは周知のとおりです。


2000年代、どの地方政府にも発展する上海がまぶしかった

移住を促す要素の一つに「食」があると考えます。誰もがそこへ行きたくなるような、地元ならではの魅力ある売り場づくりのヒントをツルヤさんに見ました。

ナショナルブランドの中にある程度の割合の地場の産品を埋め込むことーーそれがカギとなっている気がします。

ネット販売がシェアを伸ばすとはいえ、いかに「人が集まる場所」を創生していくかは重要な課題です。(実際、ツルヤさんは広域からも集客にも成功していました)

流通小売に従事されるみなさんには、ぜひトライ&エラーを重ねて頂き、その土地の唯一無二のスーパーを生み出して頂けないかと願っています。(元流通小売ライター)



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