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むずかしいです。でもだいすきです。
夏になろうとしている。降り注ぐ太陽の光が日に日に強くなってきた。
日本を出てから8ヶ月が経とうとしており、こちらに来てから2つめの学期を終えた。今回は2クラス教えていたのだけど、そのうちのひとつで、なかなか苦労したクラスがあった。
全部で20人ほどのクラスだったのだが、まず殆どの学生が教科書を買わない。買ったとしても何故か持って来ない。そもそも授業に来ない。それなのに点数を上げるよう要求してくる、などなど…。勉強するための基本姿勢からして問題ありな学生が多くて、授業をするというスタートラインに立つことすら難しいクラスだった。
その中で特に欠席が多く、教科書も買わない、宿題もやらない、授業中に音読をしても黙ったまま、という女子学生がいた。
日本語は選択科目のひとつであって、そもそも強要されてやるものではないから、基本的には口うるさく言わないようにしてきた。でもさすがに教科書も買わず遅刻ばかりというのは学習上よろしくないので、厳しく指導したこともあった。普段言葉を交わす機会が殆ど無いのに、たまのコミュニケーションで怒っているのだから、うるせえ教師だなと思っていたかもしれない。でもこっちだって人間なのである。学ぶ準備が出来ていない人に対して真面目に授業するのもなんだかバカバカしく思え、地味に心のHPを削られた。
そんなこんなで、彼女は規定の半分も授業を受けていなかったのではないか。まず欠席が多いし、授業に来たとしても遅刻ばかりでまともに最初から来ていた授業はなかったように思う。
そして春学期が終わり、期末テストがあった。その中で、「日本語の勉強はどうですか」という設問があった。「おもしろいです」とか「むずかしいです」とか、そういった解答を想定しての問題だった。
例の彼女の解答を見ると、「もずかしです。でもだいすきです。」と書いてあった。「だいすき」という単語は授業で教えていない。
思えば、日本のアニメのキャラクターがプリントされたTシャツをよく着ていたりしていた。日本の著名人で知っている人はいるかと聞いたら、羽生結弦と言っていたこともあった。もともと日本に対する関心が高い学生だったのだろう。「だいすきです」の一言を見たとき、ああそんな風に思ってたんだ、と思った。そして、その気持ちを私は知ろうとしていなかったな、とも思い、心がチクリとした。
他にも色んな言葉を習ったのに、どうしてその中で「だいすき」という言葉を選んだのだろう。たまたま知っていただけだろうか。本当にそう思って書いたのだろうか。だとしたら、何がそんなに楽しかったのだろうか。
遅刻や授業態度に気を取られて、そういう内に抱えていた思いを知ろうとせずに学期が終わってしまったことが、今更になってちょっと悔やまれた。だけど、何かを勉強すると決めたなら、最低限守らなければならないことはあるはずだから、自分の指導が必ずしも間違っていたとも思えない。それでもやはり、一人の人間として興味を持って接するべきだったのかもしれないな、と思ったりもする。
教育ってむずかしい。答えがないからこそ、苦しいなと思う。
でもずっと向き合って、考えていくしかないんだろうな。
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