権藤草介は手羽元が好き

権藤草介という人間がいる。幸せな毎日を目指して、日々一生懸命生きている。

 ところが草介の日々はめちゃくちゃだ。今日だって、自宅で受けたオンライン授業が14時半に終わってから四時間、何をしていたか記憶がない。

 記憶がないというのは不正確で、ただむやみやたらと横になってスマホを触っていただけだ。特に目的がないのに触ってしまう、いわゆる依存症というやつで、一度画面を見始めると二時間はその視線を外せなくなる。

 ただ自堕落なだけにも見えるが、それでも彼をどうか優しく見守ってあげてほしい。これでも彼は、日々をせいいっぱい生きているのだ。



 18時半、空腹が依存との戦いに勝利し、草介はようやく活動を始め、お米を研ぐ。

 スマホに正気を吸い取られた彼にはもはやお米を研ぐことができるだけで十分立派なのだ。みなで褒めたたえよう。

 もちろんそんな草介にはおかずを作る余裕なぞない。だか心配は無用。昨日作っておいた手羽元の甘辛煮がまだ残っている。

 めんどくさがりな彼だが、食い意地だけは人一倍で、食べ物には一切妥協しない。手羽元だけでは野菜が足りないからと、あらかじめ昼にコンビニで白菜の漬物を買っておくくらいだ。

 疲れているからといって、夜ご飯にカップラーメンを口にすることは滅多にない。


 手羽元にかぶりつく。濃いめの醤油味がご飯を頬張らせる。草介のおはこだ。彼の母親が作る手羽元料理には遠く及ばないが、草介が大学三年生の青年だと考えてやると、大したものであろう。

 軟骨まで残すことなく食べ終わると、草介は再び横になってスマホを触り始める。

 シャワーを浴びるべきだと感じたら、重い腰をあげシャワーを浴び、上がるとスマホを触る。そろそろ寝る時間だと思ったら、スマホでラジオを流し、寝る。スマホのアラームで目を覚まし、そのままTwitterで夜の出来事を確認する。

 スマホと生活必需行為とのミルフィーユでできた彼の生活を、もうすこし見てやってほしい。

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