権藤草介は家が好き

権藤草介は家が好きである。用事がないときはずっと家にいたいし、目的もなくごろごろしている時間は至福のときである。

草介は大学生で、今は一人暮らしをしている。さみしがりやの彼にとってその暮らしは理想的ではない。できれば人といたい、そんな思いから部屋の快適さを最小限にして、なるべく外に出ようとしていた。

ところが大学生活も三年目。一種のあきらめの感情が芽生え、草介はとうとうこたつを購入してしまった。そう、魔物を。

まだ11月だというのに、草介は一日の大半をこたつの中で過ごす。めんどくさがりな性格に拍車がかかり、課題が一向に進まない。やり始めればある程度はできるのだけど、ノートを開くことさえできないのだ。彼の手を占有するものがシャーペンからスマホに代わってずいぶんと時が経つ。

そして気が付くと時刻は三時三十分。草介はやっとの思いでこたつを抜け出し、最低限の身だしなみを整え、スーパーへ出かける。夕飯はお鍋にするつもりだったが、燦然と輝く焼き肉セットのパックに心を奪われてしまった。もうこうなったらしょうがない。

こたつの上にホットプレートを用意し、黙々と一人で食べ進める。久しぶりに食べる牛肉の味はまさに幸せそのもので、300グラムのパックを平らげると草介はそのままこたつの中で眠ってしまった。

草介が眠っていた時間は二十分。その後の睡眠に影響しない完璧な夕寝で、彼は思わず軽くガッツポーズをする。多幸感に包まれる。彼は部屋中に焼き肉のせいで不快なが充満していることなど一向に気にしない。

草介は今日も課題に手を付けられなかった。彼はまた無駄な一日を過ごしてしまったな、と少し後悔もしたが、まあそれでもいいか、と思えたので、今日はよかったとしよう。お気楽になれただけで百点満点。

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