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酷暑の読書

天気予報によると、今日は30℃超え。
わかってるのか、10月だぞ!

2024年は本当にお暑うございました。
気分転換に本でも…、というか、本を読もうという気にもならず、なんとか手に取って頁をめくっても目の上を文字がすべるばかりで内容が全然頭に入ってこない。
脳みそも煮える暑さ。
ハァ。

そんな中、唯一集中して読めた本がありました。
「武田泰淳異色短篇集 ニセ札つかいの手記」(中公文庫)
嬉しそうにネコチャン(この子が噂のタマちゃん?)を抱き上げる泰淳さんの表紙です。

奥様の百合子さんのエッセイは好きで読むのに、泰淳さんの本は未読。「ひかりごけ」のイメージから、難しいのでは、読んで辛くなるのでは、と思ってなんとなく敬遠していた所もあり。
でも、このタイトル「ニセ札つかいの手記」から醸し出されるすっとぼけた雰囲気に、これは一体どんな話だと興味をひかれた訳です。

独立した七篇からなる短篇集で、目次を写すと以下の通り。

めがね
「ゴジラ」の来る夜
空間の犯罪
女の部屋
白昼の通り魔
誰を方舟に残すか
ニセ札つかいの手記

どれも最っ高。
異色短篇集というサブタイトルがついていることからわかる通り、見たことのない魚や植物に出合った時のような「なんだこれ!」という感覚に似た奇妙な気分を味わうことができました。
酷暑を忘れる面白さ!

私が特に気に入ったのは「空間の犯罪」という短篇です。
子どもの頃の偶発的な事故で背負った不幸をきっかけに高所に興味を持ち、その流れで自らも偶発的な事件を引き起こしてしまい、最後は自分の意志で空間と一体化する、みたいな物語です。
(うまくあらすじが書けない)
これが探偵小説だとすれば、犯人は空間ということになるのでしょうか。
とにかく、空間というものを目で脳で、いやそれ以上に身体全体で体感することができる不思議な読書体験でした。
二度見、三度見みたいに立て続けに三回読んでしまったほどです。
(高所恐怖症の方は要注意)
悲劇ではあるのですが、嫌な後味はありません。
奇妙さと切なさと清々しさが一緒にきます。

今年の夏はかなり奇妙な暑さでしたが、それを上回る奇妙さだったこの短篇集で私はすっかり泰淳さんにハマってしまい、長篇小説「富士」を買いました。
これはすっかり涼しくなってから読みたい。
だから、今シーズンの暑さは今日限りでおしまいにしてほしい所です。

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