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映画感想文『トゥ・クール・トゥ・キル~殺せない殺し屋~』、アレンジ元『ザ・マジックアワー』との比較

 中国で2022年の中国映画興行収入ランキングで3位となる大ヒットを記録した『トゥ・クール・トゥ・キル~殺せない殺し屋~ (以下 : トゥ・クール・トゥ・キル)』を見てきた。本作のリメイク元である三谷幸喜作品『ザ・マジックアワー』についても予め視聴した上で、両者の違いを脚本・演技・演出の3点で比較する。


◆映画情報

《ザ・マジックアワー》

製作年:2008年
上映時間:136分
監督:三谷幸喜
脚本:三谷幸喜
キャスト:佐藤浩市、妻夫木聡、深津絵里 他

2023.7.9.20:40 | 映画.com

《トゥ・クール・トゥ・キル 殺せない殺し屋》

製作年:2022年
上映時間:109分
監督:シン・ウェンション
脚本:シン・ウェンション
キャスト:ウェイ・シャン、ホァン・ツァイルン、ウェイ・シャン 他

2023.7.9.20:40 | 映画.com

・映画公式HP

◆感想

《全体的な感想》

 『ザ・マジックアワー』はハートフルコメディ、『 トゥ・クール・トゥ・キル』はアクションコメディといった印象を受けた。後者は前者の "殺し屋の代わりを三流役者に演じさせる" という設定を引き継ぎつつも、話全体の流れや重きを置いている箇所にはそれなりに大きな違いを感じた。

《脚本》

 ストーリーについて感じた違いを書いていく。

 1つ目の違いとして『ザ・マジックアワー』では三流作者の村田がメインではあるものの様々なキャラクターの境遇を見せる群像劇だったのに対し、『トゥ・クール・トゥ・キル』では村田の役にあたるセイコウの話が大半を占めていた。

 136分から109分と短縮された上映時間からも伝わる通り、このアレンジによって話のボリュームについては減少したように感じた。人間ドラマの要素が完全になくなったわけではないが、あらゆる人間の性格や背景を見せる事で共感を呼ぶような話ではなくなった。しかしながら一本道で進むわかりやすいストーリーになっており、”笑い飛ばすコメディ" としては向いていたと思う。

 2つ目の違いとして "明確な悪人の用意" が挙げられる。『ザ・マジックアワー』を含めて三谷幸喜作品の映画では、嫌な人物やあくどい人間でも何かしらの事情を用意したりするなど何かしらのフォローがされることが多い。

 しかし、 『トゥ・クール・トゥ・キル』では私利私欲でセイコウを騙してボスを殺すように仕向けるジミーという悪役を用意した。これにより勧善懲悪の形の王道的なストーリーが出来上がり、幅広い人間に受け入れやすいストーリーになっていると思う。ただし『ザ・マジックアワー』にあった人間ドラマとしての良さはこれにより更に削られていたようにも感じる。

《演技》

 両作品でメインの人物であった村田役の佐藤浩市とセイコウ役のウェイ・シャンの演技について受けた印象をキャラクターの性格設定を含めた部分で書いていく。

 『ザ・マジックアワー』で佐藤浩市が演じる村田についても確かに癖の強い演技する三流役者であったが、個人的には "クールさ" "落ち着き" を強く表現したように感じた。この演技についてはこれまで書いてきたハートフルコメディと受け取れる作風には的確だったと思う。

 『トゥ・クール・トゥ・キル』でウェイ・シャンが演じるセイコウは佐藤浩市の演技と違う形でクセが強い。セイコウは話の序盤内面の感情の表現の拘りを熱弁しており、周りの考えを押し通して自分の演技を徹底する役になっている。作中の演技についても感情をよりオーバーに表現させているように感じた。

 この変化点により、 "殺し屋の代わりを三流役者に演じさせる" という強引な発想を押し通して勢いのあるコメディにする事ができていたと思う。

《演出》

 映像を作るのにどのような技術を用いていたかを比較する。

 『ザ・マジックアワー』は話としても映画の裏方の存在を強調しており、実際の映画撮影で使うセットをそのまま画面内で再現して見せている場面が多い。そのため全体的にCGなどはほとんど利用しておらず、カメラの撮影である程度形が出来上がるアナログ的な技法を取っている。

 一方で単純な豪華さで言えば『トゥ・クール・トゥ・キル』のほうがCGや大型のセットをふんだんに使用していたように感じる。これについては三谷幸喜本人も以下のように語っている。

でもどっちがお金がかかっているかと聞かれると、悔しいけど、
中国版の方がかかってるんだよなあ。
いいなあ、いいなあ、いいなあ。羨ましいなあ。

Cinema Life! | 2023-07-05
『トゥ・クール・トゥ・キル』三谷幸喜からコメント到着!さらに場面写真も解禁

 この違いについて "殺し屋の代わりを三流役者に演じさせる" という設定との相性を考えてみる。『ザ・マジックアワー』については "役者という映画に不可欠な職業の人物に演じさせる" という部分ではぴったりの演出を行なっていたと思う。『トゥ・クール・トゥ・キル』については演技同様に強引な設定を利用した勢いのあるコメディとしてはこれまた合っている演出だったと感じる。

 同じ設定を利用しながら、異なる部分に着目して異なる面白さを引き出していたのではないかと思う。

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