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おけちゃんのチョコ

小学、中学、高校にアライ君という同級生がいた。
アライ君は小学5年生のころに転校してきて、同じ時期に転校してきた他2人と同じく、サッカーをしていたから、なんとなくクラスでは『ちびまる子ちゃん』の同級生である大野くんと杉山くんみたいな立ち位置にいた(ような気がする)。

アライ君は京都から引っ越して来たらしく、授業で先生に指名されたら、「は↓い↑」と言い、発表をすれば「〜で↓す↑」という、こちらでは聞き馴染みのないアクセントで返事をしていた。

彼のお母さんは気さくな人で、何かの折に「アライ君は京都から来たんですよね、良いなあ」と言うと、「京都言うても奈良の鹿さんたちと仲のいい方の京都よ」と笑って答えた。
奈良の鹿さんたちと仲のいい京都、と言っても、アライ君の変わったアクセントは京都を十分に想像させるものだったし、羨ましいことには変わりがなかった。

いつしかアライ君は「おけちゃん」と呼ばれるようになっていた。
個人情報なので、さすがにフルネームは明かせないが「おけちゃん」はあまりアライ君の本名に由来するニックネームのように思えなかった。
いつしか、「おけちゃん」となった理由は「アライ君が小さい頃に桶の中に居るのを見つけたから」みたいな、今だとTwitterで炎上しそうな由来がまことしやかに囁かれていたが、アライ君とアライ君のお母さんの顔がそっくり過ぎたため、めちゃくちゃな嘘であることはみんな分かっていた。

バレンタインデーを迎えるとアライ君を思い出す。
アライ君はバレンタインデーに生まれた愛の男だからである。
中学生のころなどは、友チョコが流行り、企業の経営戦略にまんまと踊らされていた女子生徒たちは何十ものチョコレートをあくせくと作り、放課後になると配り歩いていた。
中には、友チョコを渡すというどさくさに紛れて、本命チョコを渡す猛者もいた。わたしは渡したことがない。

女子たちのチョコが余ると、「誕生日だし、アライに渡すか〜」という暗黙の了解があり、学年みんなが仲良かったので、女子たちはアライ君の家にこぞって押しかけ、「誕生日おめでとう〜」とチョコを渡していた。結構残酷である。
アライ君にはわたしも余ったマカロンを渡したことがある。アライ君は、照れ屋だったので、チョコを何度か上に掲げながら「うわっ、あー、まあ、ありがとう、ありがとう」と言っていた。

顔を真っ赤にしながら、ピンクと茶色のマカロンが入った袋を仕掛け人形みたいに動かすアライ君を毎年この時期に思い出している。

高校卒業以来会っていない。
今日も誰かにバレンタインチョコを貰っただろうか。

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