カエルの王子さま

いつの恋を「初恋」と認定するか
どこまでを「恋」だとカウントするか
いささか難しい話ではあるけれど、わたしは中学生以降の恋を、世間一般でいうところの「恋愛」としてお話ししたい。

中学2年生のころに、初めての彼氏ができた。
野球部のキャプテンをしていた人で、快活・好青年・運動神経が良い・坊主といった人だった。定期考査でいい点を取っていた話は聞かなかったけど、成績不良者としての話も聞いたことがなかったので勉強はそこそこだったのだと思う。

付き合うまでにいたった経緯は忘れていたかったけど、このエッセイを書くにあたり思い出してしまったので、しぶしぶ書き記そうと思う。しぶしぶ。

全国の中学生がそうであるように、わたしたちの頃もバレンタインデーになると女子がクラスの女子にお菓子を配り歩いた。いわゆる友チョコいうものである。
加えて、わたしたちの学校は学年自体の人数が少なかったので、女子に配られるはずの友チョコは男子にも振舞われた。

もちろん、わたしもバレンタインデー前日にせっせとお菓子を作ってクラスの人たちにお菓子を渡していた。
事件が起きたのは、そのお返しがくるホワイトデーである。

夜にご飯を食べていると、家のインターホンが鳴った。見てみると、クラスの男子3人が並んで映っている。
親に茶化されながら、玄関のほうへ行き、ドアを開けると、やはり先ほどの男子3名が並んでおり、紙袋一杯になにかを持っていた。
ホワイトデーのお返しだといって差し出された箱は、どこかのお店の物ではなさそうで、聞けば昼間に3人で作った手作りのクッキーだという。
1人の家に集まり、その子のお母さんから指南を受けながら作ったらしい。

部屋に戻って箱を開けると、星やハート型のクッキーと、おそらく自分たちが成形した厚さも輪郭もお世辞にも美しくないクッキーが入っていた。
お母さんから指南を受けただけあってクッキーは程よい甘さで美味しかった。食べながら、ふと箱に目をやると蓋に手紙がくっついていた。

それはラブレターで、
(「それはラブレターで」なんて書きたくないワードだな)
先ほどの3人の中のひとり―——冒頭で述べた彼からのものだった。

文言は至ってシンプルなもので、わたしへの好意と付き合って欲しいという内容だけが書かれていた。
快活で、野球部のキャプテンや学級委員を務めるほどの人望を持っていた彼のことを、わたしもいいなと思っていたから、そのまま「付き合う」ことになった。

付き合うといっても、中学生の「交際」なんてたかが知れていて、部活帰りに一緒に帰るくらいしかすることがなかった。
さらに高校以上に狭いコミニティーだから、だれそれが付き合っているらしい!と噂になるのは、新幹線ののぞみよりも速くて、クラスメイトはおろか担任、部活の顧問の先生、そして親にまであっという間に知られることとなった。

結局、それが嫌だったのと、あとひとつ身勝手な理由でスピード破局してしまった。

身勝手な理由とは蛙化現象のことである。
聞いたことのないひとのために説明しておくと、

「蛙化現象」は「かえるかげんしょう」と読みます。「蛙化現象」とは、「片思い中やアプローチ中は相手のことが好きだったのに、振り向いてもらえた途端に相手を嫌いになったり、気持ち悪いと感じたりする現象」のことです。

という現象のことである。
わたしは「両思いになった途端相手を気持ち悪がってしまう」という現象に中学校、高校と随分悩まされた。

付き合う前は(片思い中は)、すごく「このひとのこういうところがいいな」「素敵だな」と思っていても、両思いになれば、それすらも気持ち悪く感じてしまい、結局気持ち悪さと、そう思ってしまう自分に嫌気がさし、相手に対する罪悪感とで、別れてしまうのだった。

さて、話を戻す。
中3のときに付き合った男の子は野球部のキャプテンだった。うちの中学校は野球部が活発で、さらに私たちの代は帰りのホームルームが終われば下級生よりも先にグラウンドへ駆け出し、練習を始めるほどの団結力だったから、それに比類するように強かった。
顧問の先生も、部活のために学校に来ているような体育の先生だったので、土日の練習や試合は活発に行われていた。

ある秋のことである。
朝、学校に来てみると当時の彼氏が松葉杖をついていた。土日の練習試合でスライディングした際に前十字靭帯を切ってしまったとのことだった。
わたし自身は、捻挫以上の大怪我をしたがなかったので、前十字靭帯を切る痛みがどれほどのものであるかは経験したことがないが、所属していたバスケ部の同期が靭帯を切った際の様子を目の前で見たことがある。
おそらく、ものすごく痛いし、つらいのだと思う。

聞かされたときは、「大丈夫かな」と純粋に思ったのだが、放課後になり、それが一変してしまう事態が起こった。
部活が終わり、下校時間厳守のため校門までダッシュしたときのことである。
校門の前に松葉杖をついた人がいた。
彼である。
「あれ?どうしたん?」と聞くと、「一緒に帰ろう」という。わたしの家の方向と、彼の家の方向は同じだったけど、通学ルートが違った。
「それならば」と自分の家までは遠回りになってしまうが、松葉杖をつくほどの怪我をしている彼がいつも使うルートで帰ることにした。

おそらく怪我のことなどを話しながら、向こうの家の前に着いたのだが、なぜか彼は「家まで送る」と言い出した。
わたしは「えっ、いいよ。怪我してるじゃん。歩くの大変だよ」と断った。しかし、彼は折れなかった。「送る」の一点張りで、結局家の近くまで着いてきた。

「じゃあまた」と別れて、振り返ると松葉杖をついている彼がまだそこにいて、わたしは、


わたしは……


「無理だ」と思った。
当時の思考がまったく分からないけど、「えっ、きもちわる……」と思った。(本当にごめん!!!)

今思えば、怪我をしているのに送ってくれたことに対して肯定的に捉えられそうなのに、当時は向けられる好意がただただ大きすぎて気持ち悪くなったのだと思う。

結局、これが原因で以降も「気持ち悪さ」を抜け出せなくて別れてしまった。

ということを、中学校〜高校の間で繰り返した。
片思い中はこちらもワクワクするほど楽しい。しかし、付き合ってから冷めるまでが秒だったので、だいぶひどい態度を取り続けていた。
そのため歴代の元彼に悪口を言われていると思う。
どの元彼もみんな一様に、幸せそうにしていることを当時の学友たちから伝え聞いているので、「良かったね」という思いで、身勝手にあの頃のことを相殺している。

それと同時に不思議なのが、あれほど根強くわたしを「最悪」にしていた蛙化現象が、現在の彼氏にはまったく出てこなかったことである。
どうしてだろう。
彼氏からの行動や言動を気持ち悪いと思ったことがない。オナラの匂いを嗅がせてくるのはやめて欲しい。

わたしは、いずれこの謎を解き明かすためにアマゾンへと向かうだろう。
いまは時勢的に行けない。
ということで、今の彼氏と楽しく過ごすつもりである。

元彼のみんなもお幸せに。
あのときはごめんなさい。

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