逆チョコをもらおうの巻
思いめぐらすバレンタインデー
2月頭、世の中の女子は好きな人にどういったチョコレートを贈るか迷う時期である。
わたしも例に漏れず、「世の中の女子」よろしく彼氏に渡すプレゼントについて考えていた。
しかし、貰っても嬉しくないものをサプライズであげるくらいなら、貰って嬉しいものをあらかじめ聞いたうえで渡そうと思い、ソファーに横たわる彼氏に尋ねた。
「もうすぐバレンタインだけどお菓子は何がいい?」
彼氏はあっけらかんとこう答えた。
「甘いものはそこまで好んでいないから何も要らないよ」
想定内である。
もう4年目の仲だ。
ならば、お酒のつまみになるものでも、と思うのと同時に、「わたしは甘いもの好きなんだけどなぁ〜」と思った。
そして閃いた。
「なら、逆チョコちょうだいよ」
本命チョコ、義理チョコ、友チョコと昨今の「○○チョコ」は実にラインナップ豊かである。
その中のひとつに男性が女性に贈る「逆チョコ」なるものがあり、特に甘いものを必要としていない彼氏ならば、甘いものが好きなわたしに贈ってくれると踏んで提案した。
彼氏はしばし逡巡したあと、「絶ッッッッッ対に食べろよ!!!!!?」と答えた。
○○店バレンタイン限定のチョコといった既製品が貰えると思っていたわたしは、「絶ッッッッッ対に食べろよ!!!!!?」という圧に少々面を食らい、不安になったものの、これもまた彼氏にとっての経験♪と思い、チョコをもらう約束をした。
チョコを貰えるという事実自体が嬉しいので、特に凝ったお菓子はリクエストせず、女子の70%は作ったことがあるであろう「生チョコ」を貰うことにした。
「生チョコ」と言えば、バレンタインチョコの基本の「キ」といっても過言ではない。
これならば彼氏もチョコを作りおおせるだろうと思った。
生チョコをつくるぞ
レシピを見るとほとんどの「生チョコ」レシピは、
・板チョコ
・生クリーム
・ココアパウダー
さえあれば簡単に作れる♪
と書いてある。
というわけで買ってきた。
この時点でひとつ足りないが、ココアパウダーを今後使う予定がなかったので、「特に要らない」として、材料を2つに絞った。
溶かして、入れて、固めるという奇跡のスリーステップで生チョコができ上がるという寸法である。
彼氏についてひとつ懸念事項があるので、先に釘を刺しておく。
「あのさ、作る様子は見るけど、分量とか手順は言わないから、そういうのは自分で調べるんだよ?」
彼氏は自分で調べるという習慣が無く、「○○調べて〜」ということがあり、わたしはいつも「手に持っているスマホはなんだ!!!」と叱りつつ、調べてあげているのである。
ここで生チョコの作り方を調べてあげると、それはもはや彼氏とわたしの共作となってしまい、「逆チョコを贈ってもらった」という事実に一石を投じることになると思ったため、わたしは何もしませんよ〜というポーズをあらかじめ見せたわけである。
彼氏は「大丈夫!こんなん、溶かして、入れる!それだけでしょ?1回レシピ見たし、行ける行ける!」と豪語した。
もう!もう!既に!不安だ。
不安を隠せないわたしの横で早速調理に取り掛かる彼氏。
最初はチョコを砕くところからである。
「包丁でチョコ砕くのだるくね……?」
と、1枚目にして既に音をあげている彼氏が、急に「……!おれ天才かも!!」といって台所の引き出しをあける。
おもむろにおろし器を取り出すと、大根をおろすようにチョコをおろし始めた。
大根おろし作戦で、かなり細かくおろされたチョコを湯煎にかけて溶かしていく。
混ぜてやろうと思って、ゴムベラに手を伸ばすと「触るなッ!俺がやるッ!」と止められた。
全部目分量である(不安)。
あらかた混ぜ終えると、彼氏は「味見しちゃお♪」とか言いながら、指を突っ込んでチョコを舐めるなどしていた。
「うん、滑らかなチョコ」とのこと。
チョコを流し終えて、平らに慣らしていく。
「ラテアートっぽくしてぇな〜……」
と、謎発言。
「ラテアートとは……?」と思ったが、彼氏はチョコにすいすいすいっとゴムベラで何かを記していく。
バレンタインチョコなのに何かを祝福されてしまった。
生チョコには荷が重すぎる。
というわけで、彼氏の初めてのチョコ作りはあっという間に終わった。
ラップを上手く張れず、「祝」が消えてしまっている。
また、わたし以外の人に配るわけではないので、このチョコはスプーンでこそげ取りながら食べるらしい。
ということで、彼氏にとっての初めてのチョコ作り、わたしにとっての初めての逆チョコは幕を閉じた。
誰かが自分のために作ったものはなんでも嬉しい。
ホワイトデーはお酒を贈ろうと思う。
普段は文系院生として過ごしているため、学費や資料の購入に回します✩゜*⸜(ू ◜࿁◝ )