ロシア最大の少数言語!タタール語ってどんな言葉?
Исәнмесез! イセンメセズ(タタール語で「こんにちは」)
チュヴァシ語も研究するタタール語講師の boltwatts です。前回の記事では、私がタタール語講師になるまでの経緯について書きました。
今回は、私の人生を狂わせた(?)タタール語という言語について簡単にご紹介したいと思います。詳しくは『タタールスタンファンブック』や『世界の公用語辞典』にまとめてありますので、ご興味のある方はぜひご覧ください。
タタール語の系統・使用地域・話者
タタールスタンの首都カザンにある世界遺産カザン・クレムリン
タタール語は、良く知られた言語の中ではトルコ語によく似ています。トルコ語と同じくテュルク諸語の一つで、トルコ語とは親戚関係にあると言えるでしょう。テュルク諸語にはほかに、ウズベク語やカザフ語といった中央アジアの言語も含まれます。以下は、主なテュルク諸語の使用地域を示した地図です。
地図を見ると、タタール語(ピンク)はテュルク諸語の中でも北の方、ロシア国内に話者が分布しているのが分かると思います。タタール語は、ロシア最大の少数民族タタール人によって話される、ロシア最大の少数言語です。タタール人が多く住むタタールスタン共和国とその周辺で主に話されますが、世界中に散らばっているタタール移民によっても話されます。ですので、タタール語を学べば世界中の人と話せます。これは誇張ではなく、実際、国際タタール語オリンピックには毎年、北米、オーストラリア、中国、中央アジア、トルコ、ヨーロッパなど世界中から参加者が集まります。とはいえ、全世界の話者数は多く見積もっても約700万人で、千葉県や埼玉県の人口と同じくらいです。
戦前から戦後にかけては、日本にも多くのタタール移民がいました。東京の代々木にある東京ジャーミィは、当時のタタール移民らによって建てられたモスクがもととなっています。
東京の代々木にある東京ジャーミィ
日本で有名なタタール人と言えば、最近話題になったフィギュアスケートのカミラ・ワリエワ選手や、アリーナ・ザギトワ選手でしょうか。日本で活動している YouTuber のアシヤさんもタタール人です。彼女らはタタール語がほとんど話せないようですが、都市部の若い世代ほどロシア化が進んでおり、タタール語が話せないタタール人は珍しくありません(ワリエワ選手のおじいさんは、世代的に話せるかもしれません)。タタール語が話せる人たちも、ほとんどはロシア語とのバイリンガルです。
タタール語の文字・発音・文法
タタール語は、ロシア語とおなじキリル文字で書かれますが、ロシア語にはない6つの文字があります。下の画像に写っているのは、その6文字のオブジェです。なかでも、真ん中の大きい Ә の文字(英語の hat の a に近い音を表わします)は、タタール語のシンボルとして、タタール語普及活動のロゴマークなどにも使われています。
ロシア語からの影響を強く受けていて、ロシア語からの借用語が多く、新しいものはロシア語と同じように発音されます(日本語に例えるなら、ルー大柴のルー語のカタカナ英語のところが、ネイティブ発音になったような感じでしょうか)。また、ロシア語を直訳したような表現もたくさんあります。例えば、ロシア語では「私は20歳です」を「私に20歳」のように表現しますが、タタール語でも全く同じです。
母音は9つあり、5つの日本語よりも多いです。日本語にはない、曖昧に聞こえる母音がいくつかあり、難しく感じられるかもしれません。タタール語の特徴は、他のテュルク諸語と比べると、母音が入れ替わっているように見えることです。例えば、「肉」はトルコ語で et ですがタタール語は ит (it)、逆に「犬」はトルコ語で it / köpek ですが、タタール語では эт (et) です。
文法は、ほかのテュルク諸語とおなじく日本語に似ています。例えば、単語の後ろには接尾辞が付きますし、語順は主語・目的語・動詞の順番になっています。
タタール語の文字や発音がどんな感じかは、以下の動画を見るとなんとなく分かるかと思います。ちなみにこの動画のテキストは、前の記事で言及した、私の最初のタタール人の友達が読んでいます。
タタール語を学ぶには(2023年2月22日更新)
タタール語を学ぶことで、新しい視点で世界を見ることができます。例えば、タタール語という窓を通して見れば、多民族国家ロシアをより深く理解できるでしょう。少数言語の保護と発展という世界的な問題を、タタール語という一つの事例から考えることもできます。そしてなにより、世界中のタタール人と話せるようになります。ロシア語でも話すことはできるのですが、タタール語で話すと、彼らとの関係は一層深いものになります(よそ者、お客さんから、一気に безнеке「私たちの人」になります)。
この記事を読んで、「タタール語を学んでみたくなった」という方が少しでもいらっしゃれば嬉しいです。東京外大のオープンアカデミーでは、タタール語の講座が用意されています。現在、「タタール語初級I」の受講生を募集中です。
ぜひタタール語を学んで、日本ではほとんど知られていないタタールの世界をのぞいてみましょう!(お申し込みは3月9日まで)
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!次回は、私が研究しているもう一つの言語、タタール語のお隣さんであるチュヴァシ語について書いてみようと思います。
Киләсе очрашуга кадәр!
(キレセ・オシラシュガ・ケデル)
「ではまた!」
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