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社畜が骨折したら、引きこもりになった件。⑱~社畜の謎に迫る5~

直属の大先輩が口にした言葉ーーー

「業務中のミスは一生残る、決して消せないから」

は、まさに至言であり、忘れてはならない仕事のコツです。
その金言と事故の恐ろしさを何度も聴かされた結果、「ここだけは集中!」というポイントを2つ決めました。ひとつが、運転整備から起動直後・・・・・・ここまでが前回のお話。

今回はそのつづき、2つめのポイント、ブレーキから停止までで、まずはこちらのニュースから。

東京地下鉄(東京メトロ)は2025年度から「丸ノ内線」で、車掌が先頭車両に乗務する形態の自動運転の実証実験を行う。2023年4月から試験準備を進めるとしている。

「丸ノ内線」が超進化!2025年度に自動運転実証スタート | 自動運転ラボ (jidounten-lab.com)

自動運転とは、鉄道業界で運転士不足解消のために試験運用から実証実験に踏み出しつつある”自動列車運転装置(ATO)”のことで、レベルは「0」「1」「2」「2.5」「3」「4」の6段階で設定されています。しかも、”丸ノ内線”はレベル「2.5」。実は、この「2.5」から運転士ではなく、列車の前頭に乗務する係員、つまり、車掌が乗車すればいいとなっています。

では、運転士と車掌の違いは何なのか。
それは、機器操作が手動でできること、レベル「2」だと”列車起動”が、運転士にしかできない作業といえます。

起動直後、油断した場合、運転士の責任分担はかなり重くなります。運転席からの視界には、どうしてもできてしまう死角があります。その恐ろしさに気づくことなく、進行信号が現示(青信号が点灯)したからといって、即、列車を軌道させてしまうと・・・・・・ 車両の目の前にある踏切を横断してきた人と触車事故(人身事故)となります。残念なことに、歩行者に気づいてブレーキをかけたとしても、惰性があるため間に合わないのが現状です。

社畜が骨折したら、引きこもりになった件。⑰~社畜の謎に迫る4~|のどか (note.com)

これを可能にしたのは、自然災害による倒木、架線に飛来物が付着する確率が低い、地下という閉鎖空間に加え、ホームドアを設置したことで線路内へ人の立ち入りがほぼ不可能になったからです。ただし、他の路線で運用にこぎ着けるのは、まだまだ難しいのが現状です。列車が時速80キロで走行中、ブレーキをかけた場合、止まるまで250メートル以上必要なので、高速鉄道と呼ばれる特急列車や新幹線などに対応させるのは、まだ改善の余地があるでしょう。

というわけで、現状、停止ブレーキは運転士の仕事なのですが、どこでブレーキをかけるかは、原則、決まっていません。規定にあるのは、速度制限と、停止位置、そして定刻だけです。なので、運転士は制限速度を守りつつ、定刻にあわせて、自分で速度を調節しながら運転し、停止位置にあわせて列車を停止させなければなりません。

ここで難しいのは、速度が1キロ違うと、同じ場所で、同じブレーキをかけたとしても停止位置がずれてしまうこと。なので、「この速度で、この位置を目安に、ブレーキ○(ある数値)をかければいいから」という教えかたも多くなってきているようです。
しかし、ブレーキは生き物。
例え、速度、場所、ブレーキ力が一致したとしても、車両によってブレーキの遊びやかかり方、停止直後のどんつきが全く異なります。

”遊び”とは、ブレーキを入れてから実際にブレーキがかかるまでの時間です。おそらくコンマ何秒の差ですが停止直前の距離だと明確な差が生じます。

”かかり方”とは、同じブレーキをいれても、車種によって許容範囲内ですがその力が異なる現象です。特に、停止ブレーキに必要な高速から中速域ブレーキにありがちで、咄嗟に増しブレーキ(現在のブレーキで力が足りない場合、運転士の判断でブレーキを一段もしくはそれ以上増やすことができる)をいれて難を逃れることが少なくありません。

停止直後のどんつき・・・・・・ これが一番のくせ者です。
運転士のいう列車の停止とは、運転席の窓に貼ってある小さな印と、ホームにある停止位置標識のある場所が水平に一致した場所で列車を停止させることをいいます。ですが、「列車を完璧に停めた!」と思った直後、背後から押される”どんつき”や、背後から引っ張られる”引き戻し”が発生します。これは貨物列車や併合編成の車両などに特に発生しやすく、理屈としては慣性の法則が関わっています。慣性の法則とは、列車がブレーキをかけて止まろうとしても、力のバランスをとるために乗客は進行方向に動いてしまうという法則です。

併合編成の代表例、東北新幹線のはやぶさこまちだとすると、こまち号の運転席でブレーキをかけ停止させた場合、こまち号は停止ししても、後ろのはやぶさ号が止まるまでには時間的なラグが発生します。すると、はやぶさ号はこまち号とつながっている連結器の許容範囲内で衝突してから停止します。この衝撃で、こまち号は僅かながらに前進してしまいます。一方、はやぶさ号のブレーキ力のかかり方が、こまち号より許容範囲内で高かった場合、はやぶさ号の方が一瞬早く停止し、こまち号が前進しようとするのを阻みます。すると、こまち号が僅かに後進という”引き戻し”にあってしまうのです。

この3要素だけでも十分難しいのですが、雨や雪、大風などにも影響をうけるため、それらのずれを総合的に修正できなければ一人前の運転士とはいえないのです。私の職場では、停止位置から前後10センチ外すと停止位置不良という運転士の過失をとられます。簡単にいえば、始末書行きです。つまり、停止位置に列車を停めるということは、秒単位の咄嗟の判断と、センチ単位の繊細な操作、両方がなければ務まりません。

で・・・・・・ 残念なことに、現在の私の症状では、咄嗟の判断に対応しきれないのです。そのため、3月半ばからどうにか対応できるようになってきたものの、4月復帰には間に合いませんでした。頭では痛みは取れていると分かっていても、本能的に痛みを恐れて、一歩遅れた動きになってしまうのです。担当の先生からも「運転士でなければね・・・・・・」と口にするぐらい回復しているのに、歯がゆくて仕方がありません。

ですが、ブレーキ事故は、自傷だけで済む話ではありません。安易な停止位置修正でも5~10分、状況によっては30分近く要します。更に、ホームから飛び出すような重篤な事故の場合、分岐器を壊したり、最悪、前回お話したような脱線をする可能性さえあります。

なので、安易に復帰させてくださいとは言いません。それでも、戻りたいから、リハビリや筋トレ、食事内容の改善などいろいろ動いていますが・・・・・・ その結論がでる2週間後が、ちょっと怖いですね。

ポジティブに終わることができなくて申し訳ありませんが、社畜の謎はとりあえずここまでとして、次回につづきます。

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