僕は不倫をしている #2
邂逅
彼女と出会った日のことを思い出す。
出会いは友人に頼まれて僕が開いた合コンだった。
当時勤める会社の同僚に合コンを開いて欲しいと頼まれて、合コンをセッティングしたのだ。
当時の僕は婚約中で、幹事である知り合いの女の子には僕が婚約中であることを伝えていたから、友達のために開く合コンだし、大義名分があるから罪悪感もなく合コンの開催を依頼した。
幹事の女の子は以前合コンした時に知り合った子で、大手損保に勤める港区になれないけど港区に憧れる系の女の子だった。
僕の周りには外資系金融(プルデンシャルとかではなく、ゴールドマンサックスやJ Pモルガンで働く本物?の外資系金融)や商社マンが多く、そういう男を捕まえたくて僕の周りの友達とやたらと合コンへの出席率が高いのが今回の幹事の女の子だった。
類は友を呼ぶとはよく言ったもので、こういう子の周りに集まるのも似たような子だろうと思っていたから、今回の合コンは僕自身あまりモチベーションもなくて、きっと退屈なものになるんだろうな、と言った感覚だった。
(本来モチベーションが高くあっていいはずがないのだが・・・)
ただ、ここで面白いのが、当日僕は彼女がいない設定で合コンに参加したのだった。
幹事の女の子が気を利かせてくれたのか「婚約してることは黙っていてあげるよ」と言ってきたのだ。
もちろん、普通に考えれば 僕<女友達 なのだから、僕が婚約しているという情報は流石に事前共有するはずだと思いながらも、半分その子が言うことを信じて「独身、彼女なし」という設定で望んだ合コンだった。
自分の中での期待値をコントロールし、やる気のない格好で望んだ合コン、こういう時に限ってタイプの女の子がいたりするのが現実だ。
3:3の合コンだったが、ドンピシャタイプの女の子が彼女だった。
彼女は仕事で少し遅れて店に来た。
記憶が定かではないが、ラフな格好だったと思う。
彼女は当時、人材系の企業で営業として働いていた。
その後、I T系の企業に転職するのだが、仕事が好きで、常に向上心を持って誰かに頼って生きていこうとするのではなく、自分の力で生きていこうとするその姿勢が僕は好きだった。
渋谷の道玄坂を登って、ちょっと小道に入ったところにある小洒落たスペインバルで飲んだ後、みんなでカラオケに行った。
バルを出てカラオケに向かう途中、お互い椎名林檎が好きで特にカプチーノの歌詞の切なさについて盛り上がった。
こういう時、距離を縮めるために互いの共通項を探そうと必死になるというのは男女の恋愛においてよくあることだが、この時は特に努力をしたわけでもなく、なんとなく合うこの感覚が心地よかった。
彼女は「いわゆる女の子」といった感じの女性ではなく、自立した一人の女性だった。それでいて、どこか少し影があるというか、幸が薄そうな感じがミステリアスで危なさと脆さを兼ね備えている雰囲気が魅力的だった。
けど、それらを差し引いても単純に僕のタイプだった。
僕はあまり女子っぽい女性が好きではない。
分かりやすく言えば、一般職系より総合職系のバリキャリが好きだ。
そんなことは言うものの、働く女性の母数で見たらやはり圧倒的に一般職系の方が多いし、社会人になってからの唯一の出会いの場である合コンに来る女性の多くは一般職系だ。
そして母数の影響もあるが、容姿の面でも魅力的に感じてしまう女性の多くが一般職系女子だったのは皮肉だ。
性格重視と謳いつつ、結局のところ第一印象となる容姿で決まることが多いと言うジレンマを男性ならば誰しもが少なからず経験したことがあるのではなかろうか。
僕もご多分漏れず、次こそはそのジレンマにハマるまい、と思いながらもいざタイプの女性がいると結局は性格や相性そっち抜けで好きになってしまう。
しかし今回は勝手が違った。
容姿もドンピシャタイプで、性格までドンピシャとなると、勝手ながら運命を感じざるを得ない。
ただ、ここで不思議だったのはそれでも、婚約者との結婚が揺る気がしなかったと言うことだ。
今振り返るとこの意思決定は自分でも興味深い。
婚約指輪や社会的体裁があるとは言え、いつでも婚約破棄をしてゼロベースに戻ることはできたはずだった。
それでも、その意思決定はしなかった。
これは結果論だが、おそらく積み重ねてきた歴史が故だと思う。
どれほどタイプの異性が現れたとしても、5年10年一緒にいることができるか問われるとそこには多くの不確実性が内包されているし、実際に5年10年一緒に過ごしたパートナーとの間には情もあれば、何よりも一緒にそれだけの月日を共に過ごしてきたという実績の重みがあり、その厳然たる事実は大きい。
結局のところ、いつ出会うのか、出会った時の状況が与える影響は大きい。
恋愛はタイミングとはよく言ったものだし、それを身を以て体験したと言える。
そんなわけで、ドンピシャタイプの女性に出会うのだが、「付き合いたい」というよりは「一緒にご飯に行きたい、あわよくばその先もあると良いな」そんなことを思いながら翌日食事に誘った。
たいていの場合、気に入った女の子に限って返信が来ないものだ。
こう言う時、彼女や婚約者がいると気が楽なのも事実だ。
仮に返信が来なかったとしても、まあいいやと思える。
恋人がいる男性がモテると言うのはこの「まあいいや」と思える事なかれ主義が、女性からすると「がっついてない」という「余裕」に映るからだと思う。
とは言え、ラインを送る時はドキドキしたのを覚えている。
ドキドキと、どうせ幹事の子が婚約中の身であることを教えているから連絡が来るはずがないという半ば諦めの気持ちとが混じり合う中、「是非是非」と返信がくる。
こう言う時、これは社交辞令なのか、もうワンプッシュするべきなのか悩むところだが、失う物がない僕は「よかったら来週あたりどう?」とワンプッシュ。
こうして、食事の約束を取り付け、広尾にあるお気に入りのカジュアルフレンチをすかさず予約したのだった。
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