【モノローグ】メープルアルフォート

2023/1/16 8:42 書き始め

こちらは大学2年の時の出来事をふと思い出したというモノローグみたいな文章です。今の僕と直接関係がある…訳ではありません。強くて優しい人は、今でも好きですけれど。


メープルアルフォート



強くて自分本位な、冷たくて優しい人が好きだ。
だけどそんな風に冷たくて優しい人のことが心底理解できない、本当に"優しい人"だってこの世にはたくさん存在する。


僕が大学二年の頃だった。僕は一年後期から二年後期にかけてちょっと精神的に余裕がなくて。友達と雑談ができない(ストレスになる)という思いからか、ほとんどの一限に遅れていった。
よく、サークルの部室で過ごした。友達と会いたくなかったから、空きコマも支障がなければいつも部室にいた。
あるとき、簡単なレポート課題が出て。その分野の何かひとつを取り上げてまとめろ、みたいなものだったから、図書室で本を探していた。だけどその日は僕がダメ人間だったので、何も選べなくて。僕は、テンションが低いと決断力が著しく低くなってしまう。
早くレポートを書いて終わらせたいのに、どっちがいいのかがわからない。これにしようかなと思ったら、いやそれはテーマから外れているんじゃないかという気がしてきてしまう。
結局、僕は図書館に30分以上いて一冊しか選べなかった。

部室に行くと、同期がふたりと、先輩が(少なくとも)ひとりいた。入り口付近にいた同期ふたりのそばに座って、決断力がなくて悔しかった話を聞いてもらった。
泣きそうだった。いや、多分視界はぼやけていた。

同期のひとりが、気にしなくていいよ、出せばいいんだよと言った。うん、きっとそうだと思う。だけど、選べなかったんだ。30分もいたのに…!
もうひとりの同期が、
「お前は何で泣いてるん?」と突っぱねた。

「どうにかしてほしくて俺らに話聞いてもらったん?」

…違う。

「ただ不甲斐ない自分が嫌やって話やろ?今元気ないから弱気になってるだけやろ?」

…そう、それだけ。後でちゃんと元気になるのは知ってるもん。

「ならいい。わかってるなら別にいいわ。はよ泣き止めや。」

うん。わかってる。もうすぐ落ち着くから。


僕は暖かかった。泣き止めや、は、はやく元気になれよって意味だ。元気になったら平気なんだからはやく平気になれと。

だからマフラーを肩にかけたその内側で、とても暖かかった。

そのとき、ガタン、と部屋の奥にいた先輩が立ち上がった。

何で泣いてる子にそんな冷たいこと言うんだよ。不愉快だから帰る。

そんなことを言って、帰り際、ドアのそばにいた僕に「これ」と何かを差し出した。
見上げるとそれは先輩のアルフォートだった。まだ開けてもいない、メープル味のアルフォートが一箱。

僕は素直に受け取った。ありがとうございます、と言った。先輩は「おお」と言って出て行ってしまった。


僕はちょっと申し訳なかった。アルフォートなんか貰うほどのことはなかったのに。僕は先輩が許せなかったその(一見すると)冷たさ(のように見えるもの)の中に、ちゃんとその人の身勝手な優しさがあるのを知っていた。僕が嘘っぽく感じてしまう優しさではなく、ちゃんと的を射た、鋭く、前を向く優しい冷たさだ。


**

彼の身勝手さに振り回されて傷ついたことも何度もあったけど、前を歩いてくれたり立ち止まって待ってくれたりしたことだって何回もあった。

自分はひとりで歩いていこうとか、
誰かに一人で歩いていけよとか、別に思わない。

でも、
ひとりで立っていられる人は見ていて安心する。


メープル味のアルフォートは、あの冷たい暖かさの香りをしている。




…この同期は、人の欲を分解するのが得意な彼です。読んだ方にはなんとなく伝わってそう。




2023/1/18 19:41

(この話を読んだ方からすると)だから何、って感じだと思うのですが、(先日の私が)思い出したので文章にしたのだと思います。

下書きがたくさんあるのは調子が狂うので公開することにします。



最後まで読んでくださりありがとうございます。
秋限定ではありますが、メープル味のアルフォート、めちゃくちゃおススメです(多分毎年やってると思う)。甘すぎるのが苦手とか、そもそもメープルが無理とかでなければ、是非探してみてくださいね。




最後まで読んでくださりありがとうございます。読んでくださったあなたの夜を掬う、言葉や音楽が、この世界のどこかにありますように。明日に明るい色があることを願います。どうか、良い一日を。