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せめて私は、それを大切にしたいんだ。

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自分が書いた詩や小説等を集めています。
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2023年7月の記事一覧

【短編小説】stardust

夜空が明るくて、まるい地球から見上げる宇宙の奥行きを思った。なぜ手元が照らされていないのか疑問なくらいだった。この手の輪郭さえ捉えられないのに、どうしてすぐそこにいるあなたがわかるのだろう。どうしてその影に安心するのだろう。 、その隣で見たその藍を覚えている。 * 2023/7/22 19:29 タイトルはこちらの映画から。ファンタジーのわくわく感とと恋愛要素のある作品です。小学生の頃とても好きで年に一度は見てました。

【短編小説】薄紅。

『薄紅。』 触れた手が冷たかったから、彼も雨のなか歩いてきたのだと思った。 * チケットを受け取って、美術館のゲートをくぐる。必修科目のレポート課題さえなければ一生来なかったかもしれない、しんとした空間。 さらさらと見て回って、レポートに活かせそうなところだけメモを取った。ペアの彼はどこだろうかと、ショーケースを覗く人の背後を順路の逆向きに辿る。 結局、彼はまだ2番目の部屋にいた。特別展の度に訪れているというだけあって、こういうのが好きなんだろうと思う。声を掛けて急かすの

【短編小説】ゆめをみない。

ガラス瓶の中で揺れる、飲みかけのアルコールを支えにしている。怠惰な生活の鱗片を象徴するような水面の揺らぎ。それをひとり煽るのが慰めだった。 こうなるはずじゃなかった、と思う。こうなるはずじゃなかったから、こうなった自分なんてもう、どうでもいい。こうなった自分の行先に何があってもそれは仕方ないことだという気がする。 日々の小さな慰めを頼りにして、このつまらない自分に湧き起こる感情は(恋でも欲求でも)何でもいいから大切にした。身を滅ぼすならそれも全部、こうなるはずじゃなかった世界