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大きな木の風裏で 芽吹いた花がありました 木漏れ日に葉を重ね 風に歌って 花びらを数えるような 風に吹かれる夜が訪れても それもすべて 日々の証になるでしょう つたう雫を数えるような 雨音に眠る夜が訪れても それもすべて 一輪の糧となるでしょう いつかあせる淡い薫りも いつか散りゆく煌めきも いつか紛れる雑踏の向こうに いつか暮れゆく夕陽の向こうに それもすべて 新たな葉に還るでしょう 歌っていよう 傍(かたわら)に咲く 名もない花を 歌っていよう 語り紡ぐ物語を
2023年6月7日小説 ** "不幸自慢をする私たちは、健やかな安寧に満たされている。" 学生らしい文章が読みたいと言った直後にこんな一節から始まる小説を提出するあたりが、ことさら彼女らしかった。 「どう、センセイ。」 そう問われて、A4用紙2P分の短編小説の全体像をぱらっと確認する。まるで誰かの独白文のような、会話文もなく改行の少ない、字面を眺めただけで読み手をえぐってきそうな得体の知れなさ。それが返って読み手の目を惹きつけるのすら、彼女の思惑通りなのだろうか。