同期、仕事やめるってよ


『おめーには悪いけどよ‼️俺、1月いっぱいで仕事やめっから‼️』


先日、同期が突然、ニコニコ笑いながら僕に告げた言葉だ。
僕は "おいおい..." とアニメのキャラクターのようなセリフを放って苦笑するしかできなかった。



同期は明るいヤツだった。

僕とは違ってハキハキとしているし、リーダーシップもあって、なんだか彼にはカリスマ性を感じていた。いつも職場の理不尽について思ったことをズバズバ言ってくれるし、一緒にいて気持ちがよかった。


部署は違ったが、片付けの時間だけいつも一緒になるので、そのときに色々な話をした。アニメ、お笑い、音楽.....。彼の趣味だったギャンブルのこととか、職場や上司の愚痴とかも。

たった数分だが、その時間が僕にとって癒しであり、救いだった。
優先順位づけがうまくいかないッ!仕事が終わらなくてしんどいッ!そのせいか上司が今日は一段と冷たいッッ!もうめっちゃくちゃのくちゃくちゃで、どうにかなっちゃいそうな気分でいっぱいの日だって、片付けの時間になればそのことが笑い話に変わっていた。

唯一、素を出せる時間だった。
唯一、腹の底から笑える時間だった。


ここ何日か、職場で同期を見かけていなかった。
部署が違うので理由がわからず、アイツ連休とったのかな?なんて思っていた。


「この前、○○(同期)が、□□(同期の上司)と口論になってめちゃくちゃ泣いてたぞ。何かあったのか?」

ある日、職場の他部署のおっちゃんが僕に聞いてきた。


衝撃だった。


しんどくて泣くようなタイプではないと、勝手に思いこんでいた。
明るくてハキハキとした彼の姿しか、僕は知らなかった。
たしかに彼の部署は他部署と比べて問題が多く、本当に大変そうだったが、なんだかんだ器用に解決しているんじゃないかと思っていた。

彼のこれまでの愚痴のような笑い話は、笑いごとではなかったのだと悟った。


心配で心配で何度も連絡をしたが、返事はなかった。
ずっと気が気でなかった。



そして話は冒頭に戻る。

『おめーには悪いけどよ‼️俺、1月いっぱいで仕事やめっから‼️』


久々の出勤らしき彼は、片付けを進めながらはつらつとした声で告げる。


色んな感情がこみ上げてくる。
まず連絡かえせよ。心配かけんなバカヤロー。本当に本当に心配だったんだぞ。てかメンタルの方は大丈夫なのかオイ!ちゃんと回復したのか!
何より!なんでもっと僕を頼ってくれなかったんだよ!!なんでもっと僕にぶつけなかったんだよ!!ときには真面目な話だってしろよ!!!


ぐちゃぐちゃの感情のなか、出てきた言葉が "おいおい..." だった。


彼があまりにも通常運転だったから、僕も笑い話へと昇華させてしまったのだ。
僕の腑抜けた声と複雑な表情とで、彼はケラケラ笑った。

『俺、○○県に引っ越すことにしたわ。そっちで新しい仕事も見つける。
ここにいたら、病んでおかしくなっちゃう気がしてさ。』



正直なところ、引き止めたかった。
でも、いつも明るく真っ直ぐ突き進んでいく彼の姿に、僕はずっと憧れていたんだよなぁと思った。
ぐっと耐えた。

"うんうん、忘れるためにここから遠いとこ行ったほうがいいかもな。どの県でもギャンブルはできるしな!"


結局、ふざけたことしか言えなかった。
案の定、彼は『ふざけんなよお前www』と笑った。
僕もなんだか笑ってしまった。



ケラケラ笑いながら、ふと彼の顔を見たときに、
彼の瞳が潤んでいることに気づいた。

もしかして彼も、僕と同じだったのか。
片付けの時間、数分の、何気ない会話が、
窮屈な日々のなかの、唯一の小さな幸せだったのではないか。

彼の瞳を見た瞬間、そんな気がして、僕もうるっときてしまった。


"まぁ、お前なら、どこででもうまくやっていけると思うけどな。頑張れよ。"


泣かされた腹いせに、いつも真っ直ぐだった彼にド直球な言葉をぶつけてやった。
彼は少し笑ったあと、照れくさそうに『ん、ありがとな。』と言った。



彼のいない職場で、僕はしんどさや苦しさを乗り越えることができるだろうか。
不安はある。でもこの思い出で、もう少しは頑張れそうな気がしている。

辛いことも、笑い話にしてやろう。
こんど会ったときに、彼に面白おかしく話そう。


うお、寂しくてまた感情グシャグシャになってきた。

酒だ‼️酒飲も‼️酒ッ‼️🍻

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