雨の日に思い出すこと
夕方仕事帰りの車中から見るいつもの風景。
今日は雨降りです。
この時間は学校帰りの子供たちが歩道を歩いています。
急に振り出した日などは、ふらっと買い物に出かけた人や
傘を持たずに家を出た高校生たちが、びしょぬれになりながら
自転車に乗って帰路を急いでいるのです。
なんで高校生は傘を持たないんでしょう?
息子に思いを馳せますが、息子の場合傘を持たせてもささないでしょう。
理由は面倒くさいからです。
お前はいい。母に似て丈夫だから。
でも教科書やノートはお前ほど丈夫じゃない。
頼むから濡らさないでおくれ。
◇◇◇
学校帰りに祖父母の家に行こうとせっせと自転車をこいでいるうら若い中学生のワタクシは、急な土砂降りにパニックでした。
田舎の道は狭くて暗いのです。
その上メガネ。
バシャバシャと容赦なくたたきつける雨に、数メートル先が見えません。
ワイパー欲しい!
祖父母宅は市内の、ちょうど中学校を挟んで反対側にあったので、週末泊りに行ったりしていましたが、その時も学校から直接行こうとしていたのでしょう。
そうこうするうち、車をよけてよろよろした私は、道路側に倒れることを避け、やむなく畑に沿って並んで立っている枕木を一本引っこ抜きつつ、有刺鉄線ごと畑に突っ込んでしまったのでした。
思いのほか土は柔らかく、ふかっとぐちゃっと畑に突っ込む自分の姿がスローモーションで脳内再生されます。
自転車のかごは潰れ、私は泥だらけでびしょ濡れ、さらに有刺鉄線でひっかき傷だらけ、手は血だらけ。
おばあちゃんびっくりしたろうな。
祖父母宅に到着し、玄関でえーん。と泣きつくと、あらあら、どうしたの!?とお湯をもってきてくれ、手足を温めつつ洗い、すぐお風呂。
着替えにいつもの浴衣を持ってきてくれ、あれやこれやと世話を焼いてくれました。
おばあちゃんは、ちっちゃくて可愛くて面白くて。いつでも丁寧に面倒を見てくれて大好きでした。
何を隠そう、私は手先の器用なお祖母ちゃん似なのです。
◇◇◇
高校生のある日の下校中、相も変わらず濡れネズミな私は踏切のところで、運悪く遮断機が下りてしまいしばらく立って待つことになりました。
みんな傘をさしているので、本当に間抜けです。
その踏切は駅のホームの間近で、電車が走り出し遮断機が上がるまで時間がかかります。
こんな土砂降りの日には余計時間の流れが遅く感じられるのです。
私が自転車をとめ、びしょ濡れで電車が通り過ぎるのを待っていると
やはり踏切に足止めされた女性が一人、となりにやってきて
「あんまり意味ないけど」と待っている間、自分のさしている傘に入れてくれたのでした。
どっちにしてもびしょ濡れな私は、ちょっと恥ずかしくもあり、もごもごと「ありがとうございます」と言い、しかし、心は少々上向いて一生懸命自転車をこいで帰ったのでした。
◇◇◇
駅からの帰り道、とぼとぼと歩く私に、自分の傘を良かったら。。と差し出してくれた見ず知らずのあの人。
大丈夫です。すぐ近くなので。(だってあなた濡れちゃうでしょうよ)
断ってしまってごめんなさい。
でも私はいつも思い出しています。
心優しい、あの人たちを。
会社帰りに、信号待ちをしていると
目の前の横断歩道を、班長旗を長靴に挿した高学年の女の子がちっとも歩きにくくなさそうに、まっすぐ前を向いて渡っていきました。
水たまりの出来た車道の脇に、色とりどりの傘でコロニーを作る子供たちがいます。
車が撥ねさせる水をその傘で受けては、きゃっきゃとはしゃぐ低学年とおぼしき子供たち。
雨上がりの向こうの空に、大きな虹がくっきりと二つ。
運転中だから写真に撮ることは出来ないけれど、私の心にははっきり残っています。
息子もびしょ濡れになりながら、小さな思い出を積み重ねているのかなぁ?
娘はふとした時に取り出せる、いろんな風景をちゃんと心に刻んでいるでしょうか。
二人とも、自分を支える言葉や風景を、しっかり蓄えられているでしょうか。
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