日本語話者にとって英語がなぜこんなにむずかしいのか。両者の性格の違いから考える

拙いながらも大学の専攻として言語に向き合い続けて早6年。
高校受験時の難しい勉強も含めるともっと長くなるでしょうか。
常々疑問に思っていたことがあります。
"It made me happy"と言われて、どこか他人事のような、話し手の気持ちがこもっていないような印象を受けるのはなぜなのか。
英語を日本語に訳しても、どこかぎこちなく一読では意味がはいってこないのはなぜなのか。
日本語で数行に渡ってつらつらと書くと読みにくさを感じるのに、なぜ英語やスペイン語では長くても論理的かつ明瞭な文章を書きやすいのか。

きっと日本語とヨーロッパの言語のあいだに、そもそもの性格や構造の違いがあるんだろう。でもそれが何なのか?誰か説明してくれないかなあ、と。

そして先日、古本屋にて上記のような長年の疑問に答えてくれる本に出合いました。
翻訳家、シェイクスピア文学の研究者として活躍された安西徹雄さんの『英語の発想』という本です。

この本の目的をざっくりと要約すると、「英語から日本語に直訳すると、大きな違和感やわかりにくさ、不自然さが残りがちだ。そのわけを、2言語の性格の違いから考えてみよう」といったものです。
そして、数日前読み終わったので、この記事で自分がとくに面白いと思った点を共有したいと思います。
一見するとお堅い学術書かと思ってしまいますが、英文、直訳、意訳の順に沿って分かりやすく解説してくださっています。気になるかたはぜひ読んでみてください。

①名詞中心の英語、動詞中心の日本語

安西先生によれば(もっとも、安西先生が本書を書く前からこの違いは様々な研究者によって指摘されているようですが)、
英語は「名詞を中心として」、日本語は「動詞を中心として」構成されていると言うのです。
どういうことなのか、例をあげてみます。
NHK worldより、福島原発からの処理水放出に関する記事から引用しました。("First round of treated water release from Fukushima Daiichi plant completed", 2023/9/11, NHK-World Japan)

Analyses of water samples taken from the sea within 3 kilometers of the plant showed a maximum tritium concentration of 10 becquerels per liter.

これをまずは直訳してみます。
原発から3km以内の海から採取された水サンプルの分析は、最大トリチウム濃度が1リットルあたり10ベクレルであることを示した。

この内容であれば、一読でも入ってきますが…。もう少し日本語らしくするとこのようになります。
原発から3km以内の海から採取された水サンプルを分析した結果、最大トリチウム濃度が1リットル当たり10ベクレルであったことが明らかになった。

順を追って説明していきましょう。
まず、Analyses of water samples taken from the sea within 3 kilometers of the plantという主語。ここにも「名詞中心の英語」の特徴が表れていることが分かります。
"analyses"という名詞が中心に置かれ、後ろから前置詞や過去分詞を用いて修飾しているためです。
一方、日本語に直すと"analyses"という名詞は「分析した」という動詞に落とし込まれていることが分かります。日本語では、文意のわかりにくさや主語と述語のねじれや引き起こすため、長すぎる主語は嫌われます。名詞を動詞に変換することで、意味が明瞭になっていますね。

また、showという動詞の訳にも注目してみましょう。
「分析が示す」といった、「無生物主語がある動作をする」という表現は日本語では受け入れられません。
そのため、「明らかになる」や「(私たちが)分かる」といった表現を用いて、"analyses"という名詞を主語に置かずに処理しています。
以上のことから、日本語は動詞(あるいは用言)を中心として繋いでいくことで、意味が通りやすくなることが分かります。

余談ですが、関係代名詞は「名詞を中心として構成する」という性格を強く反映した文法だと言えます。英語やスペイン語は、関係代名詞によって名詞を後ろからどんどん修飾できる。だからこそ、長い文章になっても主語がねじれず論理的に組み立てることができるんですね。(関係代名詞に関しても大変興味深い説明がなされていたのですが、長くなりすぎてしまうのでここでは省きます。ぜひ、読んでみてください。)

②「変化を加える」英語と「変化が起こる」日本語

英語が日本語と大きく異なる所以として、「主語が目的語に変化を加える」という発想が英語に存在するからだと安西先生は指摘しています。

His sudden visit made me surprised.
彼の突然の訪問が私を驚かせた。

make+人+形容詞 の構文は学校で習いましたよね。
しかし、上のように直訳すると日本語として不自然であることは否めません。
つまり英語は「モノがモノに対してなんらかの動作を働きかけ、その結果として一つの状況なり出来事なりが成立する」という捉え方をする傾向が強いのです。
「彼の訪問」が「驚く」という結果の明らかな原因であると強調されているのは、英語が「モノがモノに働きかけて変化する」という描写をする傾向が強いためです。

一方で上の文を日本語らしく訳すと、次のようになります。
彼が急にたずねてきて驚いた。

ここでは、英語のように「彼の訪問」が「(私が)驚いた」原因として強調されているような印象はありません。このように日本語は、「ある状況がおのずから成った」というようにとらえる傾向が強いのです。

この部分を読んで、ははあ、なるほどとうなりました。
日本語では「うれしかった」と話し手の感情がのっているような印象を受けるのに対して、"It made me happy"を日本語に訳すと、「それ」が「私」に嬉しい感情を与えたというような、どこか無機質で話し手の感情が存在しないような感じになってしまいます。だからどこか他人事のように感じるのだなあと。

そして、この短い文章でも①の「名詞中心の英語、動詞中心の日本語」を如実に反映していますよね。
"His sudden visit"という英語の名詞句を、「彼が突然訪ねてくる」という動詞に落とし込むことで、日本語として自然な表現になっています。

拙いながら、以上2点、興味深いと思った点を説明させていただきました。
もしこの記事を読んで『英語の発想』に興味を持たれた方は、ぜひ読んでみてください!
翻訳なんかしないよ、私には要らない。と思う方も、ぜひ!
というのも、両言語の性格の違いを知ることで、より「英語らしい」文の組み立て方や、言い回しを身に着けられるからです。

超長く書いちゃった!疲れた・・
では!(@^^)/~~~


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?