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#4.遠雷

外を知ろうとしない者は平気で勘違いをし、

この容姿が錯覚や脅威を与えないものかと考えるのである。

~世の中とは、他人である~

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「そんなに酷かったの?」

竹山は、フロントガラスの先を見る亨子に聞くと。

「うん? 音がね。..凄かった」

彼女は、その問いが何であるか分かって、そう答える。

大柴 亨子は、竹山と合流したあと都内の高級レストランで食事をした。ここ最近、色々と忙しい2人は、この時間を楽しむつもりだった。しかし、竹山は亨子が時おり見せる浮かない顔が気になってしょうがなかった。

竹山は、何度かさっき電話で話していた事故について触れてみたが亨子は、それを振り払うように笑って話題を変えるので、竹山も亨子の気持ちを考え、それ以上聞くのはやめた。

食事を終え、20時を前に亨子の運転する車の相席に乗った竹山は、表参道の信号が黄色になりスピードを緩める車の中で、もう一度、彼女に問いかける。

「何を隠してんのさ?」

「隠すって?」

赤になった信号を見ながら亨子は、反射的に語尾を強めた。

「何か見たんだろ? 事故のあった所で?」

竹山の本音に亨子は、数秒経ってから返答する。

「..そう」

「ショックだったの?」

「ええ。だから聞かないで?」

「分かった。ごめん」

「ありがとう」

竹山の気持ちに彼女は、そんな彼を見て微笑んだ。

信号が青になり車を走らせた亨子に笑顔が戻ると竹山は、ホテルに着いたらワインを頼むついでに軽い食事も用意してもらおうと提案する。それは、亨子がさっきのレストランでは余り食が進まなかったからで、これには彼女も大きな声を出して賛成した。

ハンドルを握り嬉しそうに笑う亨子。

その数秒後。

彼女は狐につままれたように顔をして驚愕の声を上げる。

竹山の問いかけにも反応せず、亨子はパニックを起こし引き攣らせた顔で急にハンドルを左に切った。

その後、大きな衝撃とともに彼女は悲鳴を上げた。

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──

─午前 9時16分─

工場の村田運送に、中型のトラック2台が工場内に入って来て、そこから仕分けされる前の荷物が降ろされ、それを作業員の手から手に渡り、端の方にどんどん並べられていく。

まだ運ばれていない荷物を見つけた佐久間は、それを持ち上げ運ぼうとした。

「あーごめんごめん。それ、ここの荷物運んだらやるから、そこに置いとって?」

年配の作業員がその佐久間に対して声をかける。

「いいですよ。..僕やっときますから?」

「ごめんなぁぁ! ありがとう!」

彼がこういった態度を見せるのが珍しかった為に、それを見た周りの作業員から

「アイツどうしたんや?」といった声が聞かれた。

午前10時前、佐久間は休憩所に入って一服しようと横戸を開けた時、

広さ10人ほどのその場所で3人の年配作業員がテレビを見ながら何か騒いでいた。

A「最悪やな!」

B「えらいことなったど?」

C「せやけど、腕やなくて良かったなぁ?」

テレビから離れた汚ないソファーに肘を付いて横になった佐久間は、その騒ぎに目もくれず携帯を取り出し、情報サイトにアクセスしようとした時...

A「しかしえらい女やなぁぁ..自分は無傷で竹山は足を骨折って?」

C「何か変な事でも..しとったんとちゃうか?」

B「ほんまやなぁ..若いしな?

ええ女と野球選手やったら..何発でもいけるやろ?」

その会話を聞いた佐久間は思わずテレビ画面の方に目を遣った。

ぼんやりと女が映っている。佐久間は、眼鏡はかけないが視力が悪い。だから、はっきりと見えない。

只、騒がれているそれが妙に気になり、

目を細め覗き込むようにじっくり眺める。

するとそれが、あの大柴 亨子だと分かった。

その瞬間、佐久間はソファーから体を起こしてテレビの方へ向かった。

──ショック! 大柴 亨子の運転する車が事故!

助手席に乗っていた竹山 拓郎は足を骨折する重傷..

いったい彼女に何があったのか?──

その文字を見た佐久間は

「ああー!」と目を見開いて言葉を漏らした。

A「なんや気持ち悪い声だして? 知らんかったんか?

昨日の夜からこればっかやで..」

C「..まあぁ、これでアメリカの挑戦は無くなったわな?」

B「おん..2、3球団くらい候補上がっとったやろ?

またなんで竹山だけやねん? 言うたアカンけど、これ女の方やったら良かったんや」

C「いやぁ..女の方もそう思っとるわ?」

佐久間は昨日19時頃には寝てしまったので、

この事は知らなかった。

その上、朝に起きてからも携帯のネット情報は見ていなかった。

佐久間は少し緊張しながら、その年配の作業員に尋ねる。

「...これって..昨日のいつ頃、起こったんですか?」

髪を伸ばし後ろに束ねた男作業員Aが

「昨日の...えー20時前か? 20時前くらいに、この女が運転しとった車がやな、道端にようある木にぶつかったんや..」

髪を伸ばし後ろに束ねた男作業員Aが口を開き。

それに

「ほんで運転しとったこの子は怪我せんと、横に乗っとったこの子の男の竹山が骨折しよったんや」

首筋に大きいコブがある作業員Cが続いた。

それを聞いた佐久間は、途端に体中が熱くなっていくのが分かった..。

「俺だ...俺がやったんだ。一昨日の...

やっぱり...あれが起こしたんだ..」

───
──

仕事終えた佐久間は、近くにある古い中古雑貨店に寄っていた。

それは、そこの店主に

"ブラウン管のテレビ"は、ないか?

と尋ねる為だった。

その二日後の午後、自宅で安チューハイを片手にブラウン管のテレビを眺める佐久間が居た。

その居間には、3台のブラウン管のテレビが無造作に置かれていて、

いずれも中古雑貨店の倉庫に残っていた物で1台、

五千円で売ってもらった物だった。

午後14時を過ぎるとテレビ画面から記者会見の会場が映しだされ、

左端から大柴 亨子がマネージャーらしき人物に支えられながら登場すると

バシャッバシャッ! バシャッ! バシャッ!

とものすごいフラッシュが焚かれた。

その大柴 亨子は舞台の真ん中に立つと深々と頭を下げ

「..この度、わたくしのほんの小さい不手際により、

この様な惨事を招いた事を深く反省するとともに、

大怪我を負わせてしまった竹山 拓郎さん、

親族の方々、球団及び業界関係者の方々、

そしてファンの皆様、

この様な事になってしまった事を..

この場をお借りして...

改めて謝罪させて頂きます。

本当に申し訳ございませんでした...」

と更に深く頭を下げると、
より一層フラッシュの焚かれた音が会場に響いた。

佐久間は、そんな目を腫らした大柴 亨子を見つめながらニタニタと笑っていた。

色々と質問される亨子を見る度にブラウン管に向かって

「日頃の行いが悪いんだよ」と吐き捨てた。

そんな目を腫らし、マネージャーに支えられながら質疑に答える亨子を見ているとだんだん佐久間は、

ムラムラし始め、

テレビがまた涙目の亨子を映した時、

佐久間は我慢できずにズボンを降ろし、パンツから自分の陰茎を乱暴に掘り出した。

その後ろで、人影が台所をウロウロしていた事に気づく訳無く。

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「ねえ。何故、この世に呪いが存在するの?」

「それはね? それを見たいという願望があるからよ」

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