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「トラブルを乗り越えた感動」は感動で終わらせていいのか?

感動は感動でいいのだけれど、それはそれとして回避防止策はしっかり考えていてほしいな。という話です。

以下、「ラブライブ!サンシャイン!! Aqours First LoveLive! ~Step! ZERO to ONE~」、「ラブライブ!サンシャイン!!Aqours クラブ活動 LIVE & FAN MEETING 〜 Landing action Yeah!! 〜」および「ラブライブ!サンシャイン!!」アニメのネタバレを含みます。

「ラブライブ!サンシャイン!! Aqours First LoveLive! ~Step! ZERO to ONE~」の2日目、それは起こりました。「想いよひとつになれ」という楽曲での出来事です。この曲は「ラブライブ!サンシャイン!!」の作中にてラブライブの大会とメンバーのひとり、桜内梨子のピアノコンクールの日程が被り、なんやかんやあって、梨子はピアノコンクールに出場し、残りの8人がラブライブでパフォーマンスをすることになった際に披露された曲です。離れていても、想いはひとつ。この曲をライブで行う際、どう演出するのだろうというのは気になっていました。8人で歌うのだろうか。梨子を加えた9人で歌うのだろうか。演出家が出した答えは8人で歌う、そして梨子を演じる逢田梨香子さんにはピアノを弾いてもらう、というものでした。ステージ上にピアノがせり上がってきたときの会場のざわめきは今でも覚えています。表情は少し硬かったながらも初日を見事に弾ききった彼女。2日目はより余裕を持って弾いてくれるだろう。そう思っていました。

――失敗――

ところが現実はそううまくはいきませんでした。出だしで躓き、取り戻せないままピアノを引く手が止まってしまいます。しばらくしてスクリーンの映像も止まりました。楽曲も止まりました。ライブそのものが止まりました。すべてが止まりました。最初に動き出したのは誰でしょう。私が最初に認識したのは立ち上がり、泣きながら「ごめんなさい」と謝る逢田梨香子さんでした。一部のメンバーは彼女に駆け寄り励ましました。駆け寄らなかったメンバーも彼女を見つめて願っていたのではないでしょうか。会場の皆は梨子のイメージカラーである桜色のペンライトを振りながら役名の「梨子」でも愛称の「りきゃこ」でもなく「梨香子」でコールをしていました。私もしていました。何分経ったでしょうか。何とかもう一度やれる状態になり、再びピアノに向かう逢田梨香子さん。2回目の挑戦。梨子のいない8人曲なのに、会場は桜色一色でした。1回目より力強く歌うメンバー。緊張感が漂う中、皆が見守る中、見事に彼女は弾ききってみせたのでした。月並みな感想ですがまさに「想いよひとつになれ」でした。感動しました。

「ラブライブ!サンシャイン!!Aqours クラブ活動 LIVE & FAN MEETING 〜 Landing action Yeah!! 〜」の最終公演、それは起こりました。小原鞠莉を演じる鈴木愛奈さんがそれ以前の公演で足を負傷しており、ついにドクターストップがかかってしまったのです。LIVE & FAN MEETINGは元よりトークパートとライブパートから構成されています。幸いトークパートには参加できるわけですが、それでもライブパートに参加できないことは演者として不本意だったことでしょう。一緒に舞台に立つメンバーに対して、場を作ってくれているスタッフに対して、そして応援してくれるファンに対して、申し訳ない気持ちでいっぱいだったのではないでしょうか。涙を浮かべながらの謝罪からその公演は始まりました。
さて、この最終公演、正確には最終会場である最終公演含む幕張の3公演にはちょっとした仕掛けがありました。それまでは表題曲である「Landing action Yeah!!」で〆ていたのですが、幕張では最後にもう1曲、アニメ2期のEDである「勇気はどこに?君の胸に!」を会場皆で歌うことになっていたのです。これはただ曲がひとつ増えたという単純なものではありません。「ラブライブ!サンシャイン!!」劇中で願いも虚しく救うことができなかった彼女達の学校の閉校祭。その最後、学校を救えなかったことを謝った理事長の鞠莉。彼女を励ますように響く生徒達のAqoursコール。そしてEDに入り、いつもどおり終わる……かと思いきや全校生徒で大サビ前を斉唱する特殊演出。一部映像も含めてこの特殊演出を再現するものでした。最終公演の最後の曲。この曲は踊る必要がないため、鈴木愛奈さんも一緒に歌うことができました。公演の始めに謝った鈴木愛奈さんと――学校を救えなかったことを謝った理事長の鞠莉を演じる鈴木愛奈さんと――この曲を歌うことができたのです。嗚呼、まさに閉校祭のシチュエーションそのものじゃないか。彼女のイメージカラーである紫のペンライトに囲まれながら私は涙しました。ライブビューイングだったのに。感動しました。

ふたつのライブ感動話を書いたら懐かしくなってかなり満足しています。来たる「ラブライブ!サンシャイン!! Aqours 3rd LoveLive! Tour ~WONDERFUL STORIES~」はどんな感動が待ち受けているのでしょうか。

いや、そういう話ではなくて。本題はここからです。

みなさんはこれらの公演、感動されたでしょうか。私は先述したとおり、感動しました。普通に終えるよりも素晴らしいものを体験することができたとすら思えます。これだからライブは面白いのです。
しかし公演として手放しに「大成功」と言っていいのでしょうか。彼女達に「最高のパフォーマンスだったよ」と言っていいのでしょうか。それは「感動」とは切り離して「違う」と私は答えます。やはりプロの公演である以上、ピアノは止まることなく弾けるべきでしたし、パフォーマンスができなくなるほどの負傷はしてはいけませんでした。想定どおりの行程で、想像以上の感動を。それがプロの公演ではないでしょうか。

最初に断っておきますが、キャストを非難したいわけではありませんし、他の誰かを非難したいわけでもありません。トラブルとは一定確率で起こり得るものなのです。起こってしまったことは仕方ありません。起こってしまったトラブルを感動に導いたキャストやスタッフの機転と努力は素晴らしいものだと思います。一方で「いろいろあったけど結果的に感動的なパフォーマンスだったね。めでたしめでたし」で終わってしまってはまずいように思います。大切なのは、起こさずに済ませることはできなかったのか、今後起こさないようにすることはできるのか、「起こってしまったトラブル」から、しっかりと過去を振り返り、しっかりと未来を予測することです。次に起こってしまうリスクを最小限に抑えることです。このときは2回目でピアノが成功したのでよかったですが、2回目も失敗していたらどうなっていたのでしょう。このときは最終公演に穴をあけるだけで済みましたが、ツアー中盤でドクターストップがかかっていたらどうなっていたのでしょう。落ち着いて思い返すと、実は結構ギリギリのところで凌いできたように思います。例えばピアノは手元が暗かったのではないか、例えば負傷は過度な負担がかかるほど公演を詰め過ぎていたのではないか。などなど。今後を見据えた原因の振り返りとその回避防止策については(もちろん言われるまでもなくやられていると信じていますが改めて)しっかり考えられているといいなと、そういう話です。

なぜ「ラブライブ!サンシャイン!! Aqours 3rd LoveLive! Tour ~WONDERFUL STORIES~」を前にしてこんな説教くさい話をしているのか。
それは、本公演中に危険なパフォーマンスが行われる可能性が含まれているからです。

「MIRACLE WAVE」のサビ前、上記動画の12秒頃から。劇中で主人公である高海千歌はロンダートからのバク転を何度も何度も何度も失敗しながら練習し、ついに習得、披露します。この映像を見た半年前の誰もが「え、千歌演ずる伊波杏樹さん、ライブでこれやるの!?」と思ったのではないでしょうか。本当にやるかは定かではありませんが、ピアノだって再現されたのです。この離れ業だって再現される可能性は低くありません。

絶対無理だとは思いませんし、危険なのでやめてくれとも言いません。むしろこの目で見たい私がいます。しかしやるのであればしっかりとリスクを予測し、回避防止策を準備してほしいということです。先述した「負傷」については最悪生命の危険がありますが、定常的なパフォーマンスによるものでリスクはある程度予測しやすいです。先述した「ピアノ」については非定常的なパフォーマンスによるものでリスクは予測しにくいですが、生命の危険はあまりありません。一方で、ロンダートからのバク転はどうでしょう。非定常的でリスクを予測しにくい上に、生命の危険があるのです。
練習で99%できていたとして、
・例えば本番の会場でもいつも通りできるのか。
・例えば3万人の前でもいつも通りできるのか。
・例えば雨が降っていてもいつも通りできるのか。
・例えば照明で温度が上がっていてもいつも通りできるのか。
・例えば手を着く位置にカメムシがいてもいつも通りできるのか。
その他にもいろいろなリスクが予測できると思います。最後のひとつなんてバカげていると思うかもしれませんが、十分に起こり得ることなのです。本人のコンディションのみならず、周囲も万全の体制で臨んで頂き、無事に怪我なく6公演走りきってほしいなと切に願っています。

やるのかな。やらないのかな。
何だかんだ一番ドキドキしている案件です。
「ラブライブ!サンシャイン!! Aqours 3rd LoveLive! Tour ~WONDERFUL STORIES~」いよいよ開幕。楽しみですね!

余談

私がピアノの件を話すときに必ずセットで紹介するのが、その件に対する逢田梨香子さんのコメントです。

「失敗しちゃったけどみんなのお陰で楽しめた☆」みたいな薄っぺらいコメントだったらぶっ飛ばしていたかもしれません。しかしそうではありませんでした。浮かれることなく、プロであることを自覚し、自身の立場を弁えておられるのだなと、ますますファンになってしまった次第です。

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